「大人になったなと、そう思える作品」シン・エヴァンゲリオン劇場版 yutuさんの映画レビュー(感想・評価)
大人になったなと、そう思える作品
シンエヴァンゲリオンは面白かったし、良かったと思っている。
ただ、釈然としない。
エヴァンゲリオンに出会ったのは中学生の時だった。
当時の自分は大人への階段を上っている途中で、大人に振り回されるシンジと自分に同族意識のようなものを感じていた。
大人でも、子供でもない。ましてやヒーローでもない自分にとって、葛藤し恐怖しながら戦うシンジ君は、なんだか手が届きそうで感情移入しやすかったのだと思う。
破のラスト、ミサトさんがシンジ君を送り出すシーンには幾度となく励まされた。
私は物語として、アイコンとしてエヴァンゲリオンを追うようになった。
すべて過去形だ。
大人になって仕事をして、いつしかミサトさんや加持さんの立場で物語を見る視点を手に入れた。
本当にくだらないような、ともすれば現代社会において”よくある”ような話だ。
Qを見たときは、そんな感想を抱いた。
社会は知ろうとしない限り何も教えてくれないし、知識不足で短慮を起こすことなんかよくあることだ。
そしてその短慮を前提に、手ぐすね引いて待っている人がいることも、よくある。
シンエヴァンゲリオンは大人の話だ。
今まで子供のように今ある世界を否定し続けた人々が、今度は今ある世界の延長線上にある未来を夢見ることになる。
大人になると、自分という人間の個が流動性を失い、今あるものを守ろうと躍起になる。
消耗した人間性を補うように、珍妙な新製品に手を出さなくなり、明日の日常を願うようになる。
それが大人になるというものだと実感している最中だ。
シンエヴァンゲリオンは本当にずるい。
自分はひねくれているので中盤まで”くだらない”物語に落ち着いてしまったのだと落胆していた。
しかし私は涙を流していた。
そのことが自分にとってすごく意外のことだったし、困惑した。
だけど、泣くしかないじゃないか。トウジが、スズハラが、委員長があんな風に穏やかに生活しているなんて。
シンジ君にとっては、彼らがもっと過酷な生活をしていて、恨み言を言われた方が楽だっただろう。
とても酷な仕打ちに思える。
その方が自分にとっても、エヴァンゲリオンというものを”青春”のアンチテーゼとして楽しめただろう。
彼らが”小さな幸せ”を体現している風景なんて、泣くしかないじゃないか。
ニアサードインパクトで友人を殺してしまったシンジ君という彼に対しての同情と、忙しさにかまけて友人を切り捨てた自分がばからしく思える。
本当に良かったと心の底から思える。
シンジ君が自分のようにならなくて。
”子供”だった登場人物たちはいつしか”大人”になり、大人としての責務を果たしていく。
ミサトさんをはじめとしたブンダーの搭乗員たちも。
そして、シンジ君も。
クソみたいな最高な、おとぎ話だ。
本当に良かった。
面白かったといえる。
シンエヴァンゲリオンはそんな作品だった。
ただ私の心の奥底には釈然としない気持ちも残っている。
きっと中学生の私がシンエヴァンゲリオンをみたら、納得しなかったしクソみたいな作品で終わっていただろう。
大人になったなと、実感した。
そんな私のエヴァンゲリオンだった。
今感想を書きながら思い出すと、酒とたばこが止まらない。
感慨深く、釈然としない。
そんな話だった。
酔っていて、感情が制御できないので、この辺で。