「ファイナルのなのに突っ込みどころ満載すぎます。」踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
ファイナルのなのに突っ込みどころ満載すぎます。
特番は20%超の高視聴率。今回ファイナルを銘打っただけに映画もメガヒットとなるのは必死でしょう。けれども前作から何かもの足りないものを感じます。前作ではメタボで成人病に悩む青島が描かれました。演じている織田も相応の年齢を重ねて、青島のフレッシュ感を醸し出していくのには、そろそろ限界でしょうか。
小地蔵が気になるのは、君塚脚本。犯人像と動機には前作も、無理があると思うのです。軽妙なタッチのなかにもしっかりした社会性を織り込もうとするところはいいと思うのです。特に本作では、ファイナルに相応しく警察官僚機構の欺瞞を暴くというテーマ性を際立たせた内容でした。身内が絡む事件は徹底的に隠蔽するということまでは、良かったのですが、果たして現職警官が子供の誘拐を行うものでしょうか?まして誘拐事件を担当した刑事が、かつての事件と同じ年頃の子供を誘拐して殺害しようとするなんて、絶対にあり得ないと思います。正義を訴える動機とは落差がありすぎるのです。
サスペンスものがベースのドラマであれば、動機と犯人像にリアルティがないと白けてしまいます。どちらかというとコメディに近い「踊る」シリーズでも、そこは外して欲しくないと思うのです。少し前に『臨場』劇場版が公開されたためどうしても比較してしまいがちで、まぁ、本作には「俺のと違うなぁ~」とつぶやいてしまいました。
ただおふざけが過ぎた前作よりは、熱血刑事ドラマとして原点回帰しているところはいいと思います。後半、本庁幹部の隠蔽工作と犠牲となって、警官の離職勧告を突き付けられた青島は、それを無視して、誘拐犯人を追跡し、走り回ります。犯人の逃走経路をなぞるように走る姿。そして、走る青島に次々電話で指示を繰り出す室井との掛けあいに、「踊る」シリーズらしさが一際よく描かれていたと思います。
でもね。山カンだけで広い湾岸の倉庫街を走り回って、犯人の隠れ場所が分かるものでしょうか。タイムリミットギリギリで突如青島が、子供ならバナナが好きだという思いつきで、犯人はバナナの倉庫にいると言い始めたら、目の前にドンピシャ!バナナの倉庫が
あったなんて、なんて偶然というか、強引な力業というかこじつけなんでしょう。本広監督の演出には、臆面もなく予定調和の結末を、恥もなく描いてしまうところがあるのでシラけるのですね。
バナナ倉庫で、青島が危機一髪を迎えるとき、なぜか九州に向かったはずの夜行バス飛び込んでくるのタイミングもご都合良すぎ。後でなんで倉庫に目がけて飛び込んでくることになったのかネタバレされるものの、その後の一件落着後のシーンのための強引な前振りにしか見えませんでした。
ファイナルとなって、もう一つ気になるのはすみれとの同僚以上、恋人未満の関係。冒頭に張り込み中のふたりが、偽装のため唐揚げ屋の夫婦になりきるところは、意味深な伏線でした。ところが、今回はすみれに健康問題が浮上し、誰にも告げずにひっそりと湾岸署を退職してしまうのですね。立ち去るすみれの背中がアップされる、黄昏の湾岸署から続く街路のシーンは、なかなか哀愁がこもっていて、良かったと思います。
問題は、そこからどうふたりの仲をリバウンドさせていくか。その戻し方は、尺の関係からか、ちょっと強引すぎるなぁと思いましたねぇ。
それと、ファイナルなんだから、ふたりの関係に決着をつけるもっと決定的なシーンがあっても良かったのではと思いました。
あり得なさが漂う脚本のなかで、救いは鳥飼管理官の存在。警視庁幹部の隠蔽工作に具申し、青島と室井をスケープゴートに仕立てたのは、この男の発案でした。
演じている小栗旬がいうには、湾岸署に降り立つダースベイダーという気持ちで演じたとか。確かに湾岸署に着任して、青島の意見をことごとく握りつぶす姿は、単なる悪役というよりも、まさに侵略者そのものという不気味さでした。君塚脚本では、この男にドンデン返しを仕掛けて、ラストには驚くべき過去が披露されることになります。そんなトンデモな役柄を実によく小栗旬は演じきっていたと思います。
コミカルさも健在。ふたりが退職してしまったスリーアミーゴスも適時登場しては、可笑しさを醸し出していました。また本庁の隠蔽工作に対抗して、青島たちも誤発注で、カートンごと運ばれてきた缶ビールの山を、庁内で必死に隠蔽するところも笑えました。