「モリオ役の菅田将暉の演技が素晴らしい。本当に6歳の少年に見えてくる。」王様とボク 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
モリオ役の菅田将暉の演技が素晴らしい。本当に6歳の少年に見えてくる。
冒頭にミキヒコとキエのラブストーリーが展開するのかと想わせておいて、ストーリーは意外な方へ、拡がっていきました。ミキヒコがずっとずっとこころの中で12年間も思い続けていたこと。それは親友のモリオが目の前でブランコから飛び出してしまい、植物人間となってしまったことです。
そのモリオが、奇跡的に回復して、ミキヒコと再開するのです。けれどもモリオの意識は6歳の少年のまま。外見は18歳の青年なのにこころは6歳のままのという人物がどんな振る舞いをするのかか本作の見せ場でした。そしてモリオと関わる周りの人物の対応。特に12年間も思い続けてきたミキヒコの、彼のためなら愛するキエを捨てでもなんでもやってあげたいというピュアな気持ちには感動させられます。
その核心となるモリオ役の菅田将暉の演技が素晴らしいのです。『仮面ライダーにしておくのはもたっいない!本当に6歳の少年に見えてくるので、まるで映画の魔法にかかった心境になります。そのリアルな純真さは、単に演技で出せるものでなく、菅田自身が持っているナイーブな感性の賜物でしょう。またモリオに絡むミキヒコの優しさもとてもいいのです。演じている松坂桃李は、大ヒットしている『ツナグ』でも主演し、依頼者やクラスメートの心の痛みを分かち合う演技で、好評を博しています。本作でもそんな松坂の人間味ある慈愛が、滲み出ているかのような魅力あるミキヒコを作り上げていたのでした。モリオのことを思い出すだけでも泣けてくるというのは、難しい演技だったでしょうね。
そんな難しい設定の人間群像を生み出す点では、前田哲監督は天才的な閃きを発揮したと思います。「ブタがいた教室」で子供たちの生き生きした表情がとても素晴らしく思えて、すっかりファンになりました。本作でも、そんな前田監督の演出力が発揮されていると思います。特に、モリオ3人の小学生達との交流シーンは、不思議に心が温まりました。子供を描かせたら鉄板の監督なんですね。余談ですが、モリオは自分の精神年齢が近い、3人の小学生には、友だちになろうと自らアプローチしていきます。けれども大の親友だったミキヒコには、親友だったということは分かっていても、大人になったミキヒコには近づきがたい恐怖心を忍ばせ、拒絶しがちなのは、ミキヒコにとって辛いところだったでしょう。
ラストは、ミキヒコが強引にモリオとの共同生活に向けて独走し始めます。そのためキエを置いてまで、何処か遠くの土地の暮らそうと思い始めるのです。そして、全く会いに来ず施設に預けたままにしている、ミキヒコの母親に合わせようとも。九州に住んでいる母親の元へ、バイクにモリオを乗せて向かうところで終わります。
気になるのは、ラストが伏線の未消化で終わってしまうのです。これはほぼ同時期に公開されている『旅の贈りもの 明日へ』も同様でした。両作とも途中までのアイディアは素晴らしいのですが、どうドラマを締めていくか、その終わり方がまとまっておらず、いきなり終わってしまうところがとても残念です。
なぜモリオの母親は会いに来ないのか。なぜモリオのことを忘れて欲しい、もう会わないでくれと母親はミキヒコに手紙を送ったのか。そして九州まで無事に到着して再開できたのか。ミキヒコとキエの関係はどうなったのか。さらに、もうひとりの親友トモナリはなぜモリオとの再会を望まなかったのかなど、伏線が未消化のままに終わってしまいました。
ところで本作でモリオの演技以上に存在感を見せつけられるのが、キエ役の二階堂ふみ。『シミズ』でも魅せてくれた豊かな感情表現そのままに、本作でも多感な女子高生を演じました。普段はキャピキャピに暴れ回るのに、突然ナイーブな表情に変わったり、ミキヒコの悲しみや悩みを真剣に受け止めようとする多感な感情表現は、彼女が一番だと思います。『シミズ』と比べて明るいキャラでかわいかったですね。