劇場公開日 2012年7月21日

「結末の盛り上げ方がやや足りないけど母子の絆の深さに感動。宮崎あおいが素晴らしい!」おおかみこどもの雨と雪 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0結末の盛り上げ方がやや足りないけど母子の絆の深さに感動。宮崎あおいが素晴らしい!

2012年7月11日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 なんといっても『八日目の蝉』の奥寺佐渡子の脚本であるだけに、母子の情感はたっぷり。一児の母でもあるあるだけに、子育ての大変さが滲み出ていました。きっといま同じように子育て中の若いお母さんには、「そうそう!」って、とても共感を抱かれることでしょう。 ただラストの盛り上げ方が今ひとつという気がしました。姉の雪の初恋。そして弟の雨の自立。それぞれおおかみの子供でるという宿命を背負って、自分の生きる道を開こうとする姿には共感は持てるのですが、もう少し時間切れ気味なラストに余裕を見せて、一波乱を描いて欲しかったです。

 映像的には、バーチャル空間のリアルティを描ききった『サマーウォーズ』のときよりもさらに進化。実写に近い3D描写を取り入れています。花と子供たちが散歩するシーンや雨が「先生」とともに森を駆け巡るところは、スピーディな情景移動と相まって、観客もスクリーンのなかで森を駆け巡っているような錯覚に襲われてしまう映像でした。

 さて、知り合って好きになった男性は、なんとおおかみ男だったというあり得ない設定の本作。その奇天烈さを、花夫婦の暮らしぶりに密着し、丹念に日常生活の悲喜こもごもを描くことで、次第に違和感をなくしていくところが、細田監督の演出の上手いところだと感じました。
 なかでも、『カールじいさんの空飛ぶ家』の冒頭を彷彿させる無音シーンは感動的。花と夫との慎ましい暮らしぶり、貧しいけれど笑顔の絶えない幸福そうな花の表情に、思わず目頭が熱くなりました。

 その後生まれてきたふたりの雨と雪の子供たち。だだのこねかたはさすがに毎日子育てに奮闘している脚本家の実感がこもっていました。しかもおおかみパワーが加わって、すさまし暴れようなんですね(^^ゞ
 子供たちが病気になったとき、小児科に連れて行くべき、動物病院に連れて行くべきか迷ってしまう花の困惑ぶりが可笑しかったです。

 夫の死亡はやや唐突だけれど、オオカミの姿のままで死んでいった夫がゴミとして回収されるところに居合わせても、遺体として主張できない花の悲しみはよく伝わってきました。その死の理由にも、ちょっとホロリとさせられます。

 それでもめげずにふたりの子育てに取り組んでいく、花の気丈さが本作のいいところ。決して暗くならないのですね。そして、家族の秘密を守り、将来子供たちがおおかみとして生きることを選択した場合を考えた花は、長野県の山深い山村に引っ越すのです。

 引っ越し後は、アルプスの山々や緑深い森など自然の描写がリアルで素敵です。また人との関わりあいを避けて都会から引っ越してきたはずなのに、山村の人々は、遠くから足を運んで、畑仕事のアドバイスなど花の自活を助けてくれるです。そんな田舎ならではの人々の助け合って生きる人情にもほだされました。

 やがて物語は、雨と雪の成長と共に、おおかみであるべきか、人間として生きるか。姉弟それぞれの生きる道の選択を迫ります。
 雪は、学校生活がとても気に入り、友だちもできて、普通の小学生として周囲に溶け込んでいきました。なかでも、転校生の少年とは、淡い恋の予感が。どうも雪は、人間として普通に生きることを望んでいるようです。そんな雪が、少年に自分の正体を打ち明けるシーンの描写とても印象的でした。
 一方弟の雨は、森の主の年老いたキツネを「先生」とよび、学校にも行かずに、毎日
森に出向き「先生」に付き従って、森の掟を学びます。
 10歳になった雨。人間としてはまだ子供ですが、おおかみとしては充分に自活しうる年頃を迎えていました。「先生」が死んで、森は新たな主が求められていました。嵐の日にとうとう雨は巣立ちを決意します。
 それを察知した花は、嵐の中を必死で雨を探して、遭難してしまうのです。花はどうなってしまうのか、ラストは劇場でご覧ください。

 出演陣では、花の吹替えを担当した宮崎あおいが抜群に花の明るさや愛の深さを表現していてよかったです。夫役の大沢たかおも、渋めの声で世間から隠棲して生きてきたおおかみ男らしさを上手く表現していました。

 ところで、この夏、定番のシブリ作品がないというのが一番の異変ですね。代わりに登場したのが、この細田守監督作品。日本テレビが全面的にバックアップするからには、ヒット間違いなしでしょう。『コクリコ坂から』では老害さえ感じたジブリに変わって、これからはスタジオ地図の時代がやってくるのでしょうか。次作も楽しみです。

流山の小地蔵