劇場公開日 2012年7月21日

「オオカミの皮をかぶった底の浅い商業映画」おおかみこどもの雨と雪 @どMなキョンさんの映画レビュー(感想・評価)

2.0オオカミの皮をかぶった底の浅い商業映画

2013年3月25日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

難しい

まず、正直な感想としては「断片的なテーマをご都合主義でまとめた上にオブラートで包んだよくわからない映画」という感じでした。

細田監督が得意とするCGも多用していて映像は非常に綺麗なんだけど、とにかくテーマが不明瞭かつ不適切。

女子大生の主人公「花」は、学生でもないのに講義を受けている長身イケメンに恋をする。
イケメンは自分がオオカミ男であることを告げるが、そのまま愛し合って子供が生まれる。

本来、人とオオカミのDNAは構造的に異なっているのでどんなに頑張っても狼人間は生まれない。このあたりで「これはSFなんですよ」と視聴者にお断りを入れているわけだ。

それにしても、「俺はオオカミ男だ」とカミングアウトした男と避妊もせずに性交してしまうあたり、最近の女子大生の乱れた性を表現しようとしているんだろうか。

それにしても獣姦である。画面には裸の女性と狼が布団になだれ込むシーンが映し出され、序盤から居心地が悪い。

「そういうシーンを描かないと後半の説明がつかない」というのもわかるが、あえて描く必要性はあるのだろうか。長年タブーとされてきた獣姦を全年齢アニメで描くのは教育上どうなのか。少なくとも自分に幼い子供がいたら見せたくはない。飼い犬と性行為の真似事でもされたら大変だ。

なんというか、発想が同人誌レベルなのである。

その後、2匹のおおかみこどもを残して父親のオオカミ男は死んでしまい、母親はシングルマザーになる。

都会のアパート暮らしだったため、暴れる子供に隣人から苦情が来たり、事情が事情なために定期検診も受けないことを不審に思った児童相談所が押しかけてくるシーンは、現代の子育てのしにくさや虐待問題を暗に表現したいのだろうか。

結局、人里離れた田舎に引っ越すことになり、廃屋のようなところに住み始めるのだが、実際問題としてシングルマザーが(特殊なハンデを背負った)子供を人里離れた田舎で育てるというのは相当の苦労があるのではないか。

これは誤解を恐れずにあえて言うのだが、「特殊なハンデ」という意味では障害児を抱える親の子育ての状況とも受け取れる。

生まれつきの体の障害は染色体(遺伝子)異常によって引き起こされるのだが、異常な染色体を持った親からは同じように障害児が生まれてくる可能性が高くなる。

障害を持った人でも恋愛し、子孫を残したいと願う気持ちはあってしかるべきなのだが、そこに葛藤が生まれるというのはよく耳にする。「もし自分のような障害を持った子供が生まれてしまったら」という恐怖がつきまとう。

最近では「障害」と呼ばずに「個性」だという風潮もあるようだが、今回のおおかみこどものようにおよそ個性と呼ぶには特殊すぎるケースの場合、子育ては壮絶なものになるだろう。

「アニメだから」という理由でそのへんの苦労を難なくこなしてしまう母親は、男性の俺から見てもバイタリティあふれるスーパーウーマンに見えた。

監督が女性だったらもう少し違う表現になっていたかもしれない。というかそもそもテーマに選ばないだろう。

しばらくの間は「貯金で」子育てするという設定だが、役所の手当もなしに子供を小学校まで育てるのにどれほどの金が必要かを考えると相当額の貯金があったのではないかと思われるが、このへんも妙にリアリティがない。実家の親には子供がいることを報告しているんだろうか。

「となりのトトロ」に代表される自然をテーマにした作品は、環境問題や自然の大切さを問いかけてくるため家族で観やすいし、映画賞などでの評価も高いんだと思われるが、自給自足のために畑を耕し、地元の農家と打ち解けていくシーンは、田舎のすばらしさを表現したいんだろうか。狙いがよくわからない。

最終的におおかみこどもの二人は、女の子が人間の世界で進学するため都会で寮生活、男の子がおおかみの世界へ戻ることを決意して一家離散する。

母親は都会に戻ることもできたのだろうが、おおかみになった男の子がいつでも戻れるようにと田舎暮らしを続けているんだろう。

「しっかり生きて!」とこどもに声援を送る母親だが、これは視聴者の誰に対するメッセージなのか。

冷静に考えると、人間界での生活を選んだ女の子はいずれ恋をして、再びおおかみの子供を産むのだろうか。

そしておおかみの世界に戻った男の子はメスのおおかみと交尾して、やはりおおかみの子供を授かるんだろうか。

そのあたりの疑問をすっかり丸投げにしたまま映画は終わる。

ちなみに、おおかみの母乳は人間のそれと成分が異なるため消化できず、おおかみに人間の育児は生物学的に不可能なんだとか。

また、世界各地で報告されている「野生児」は、発見後数年で死亡してしまうケースがほとんどらしい。たいていの場合、育児放棄された子供が半野生化するのではないかと見られている。

SF作品にリアリティを求めるなと言われたらそこまでなのだが、この作品はリアルさを追求している場所がずれていて、しかも中途半端なので妙な違和感を感じる。

おそらくではあるが、映画の企画やストーリー作りの会議で

「おおかみと人の恋という設定はどうでしょうか?」
「最近は育児が色々と問題になっているので、そのあたりも散りばめて」
「自然も入れたいよね、壮大な山とか、雪景色で」
「小さい子が急に半獣化したらかわいいよね」
「子供は二人いて、それぞれ別の人生を歩むというのは」
「いいねそれ、子供の自立という暗喩になるね」
「リアリティは、ストーリーの邪魔にならない程度で」
「これでいきましょう」

みたいな打ち合わせがあったのが感じ取れてしまうのだ

利益回収が目的の映画産業ではよくある、ご都合主義のストーリーというやつだ。
何か1本筋の通った信念のようなもの(一番何を言いたいか)がないから、都合のいいシーンを無理な設定でつなぎ合わせて可愛らしい動物というオブラートに包むという。

まさにオオカミの皮をかぶった商業映画でした

「時をかける少女」や「サマーウォーズ」が良かっただけに残念。

ではでは

@どMなキョン
gyogyoさんのコメント
2013年5月13日

世の中にはひねくれたクズがたくさんいます。こいつのようにね。こういうやからが人の善意と偽善とかいうんでしょ。

gyogyo
シゲさんのコメント
2013年4月16日

あまりにも真面目過ぎるコメント過ぎて・・・このコメント自体に
興ざめです(苦笑)
正直、アニメ映画を観るのに、そんな現実リアル追求を求めては駄目でしょ・・・(^_^;)
コメントした方は、まだお若い方なのかなぁ??

シゲ