劇場公開日 2012年7月21日

「親離れ、子離れ」おおかみこどもの雨と雪 マスター@だんだんさんの映画レビュー(感想・評価)

2.5親離れ、子離れ

2012年7月26日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

笑える

単純

大学生の花が、キャンバスで見かけた〈彼〉とすぐ仲良くなるのはわかる。惹かれるというのは、そういうことだからだ。
その〈彼〉が実はオオカミだったというのが物語の発端だが、花はその事実をあっさり受け入れる。なんの葛藤もないのは不自然だ。

二人の間に、人とオオカミの顔をもつ雪と雨の姉弟が産まれる。
ところが〈彼〉は、あっけなく死んでしまう。
このあと花の苦戦ぶりが描かれ、ようやく話に本腰が入る。近所とのトラブルや家主からの苦情、行政指導員の訪問などは現実感がある。成長していく子供たちをいつまでも人目から遠ざけることはできない。
花が子供たちを連れて、遠く離れた山中に引っ越すことを決断する動機付けは充分に描かれている。

山の生活に入ると、絵はますます美しくなって、日本の原風景を堪能できる。
ところが、これにCGの手が加えられたとはっきりわかるコマを見せられた瞬間、「おおかみこども」の世界から現実に引き戻されてしまうのだ。
とくに水がよくない。フルCGのアニメでも、水が妙にリアルで全体の画から浮いてしまうことがよくある。「タンタンの冒険」や「カーズ2」でも、海のシーンだけアニメに見えなくなる。実写映画でCGの水を描き加える時代だ。リアルに見えるのも当然だ。それだけに、せっかくの美しい手描きのセル画にCG処理を加えるときは慎重さが必要だと思う。
本作の雨のシーンはたしかに描写が細かい。だが、背景の画との違和感はフルCGアニメの比ではない。せっかくの絵が作りものに見えてしまう。

物語に戻るが、人の目を避けてこの山村に逃れてきたはずが、思いもしない人情に触れることになる。
とくに韮崎の爺さんがいい。花が耕す畑をもっと広くしろという。その理由が分かったとき、人付き合いの温かみを知る。
ぶっきらぼうだが思いやりのある爺さんに菅原文太の声がよく合っている。

成長してきた雪と雨、ふたりともまだ小学生だが、精神的には逞しく育ち、それぞれ自分の将来を見据えていく。
この作品は、意外なほど早く訪れる、親離れと子離れを描いた物語だ。
ただ、話が散漫で、親と子の心が充分に描かれたとはいえず、凝った画づくりよりも花が自身の子離れを受け入れるまでの親の成長を見せて欲しかった。

マスター@だんだん
heso&momoさんのコメント
2012年8月13日

最後の、『ただ、話が散漫で、親と子の心が充分に描かれたとはいえず、凝った画づくりよりも花が自身の子離れを受け入れるまでの親の成長を見せて欲しかった。』には反対です。

リアルな水の描写も、細かい自然の描写も、ただその技術やテクニックを見せているものではありません。十分に親子の感情は表現されていますし、その間に出てくる自然はあくまでその時間経過を読み取らせる小道具です。

最近、全てをわかりやすく説明して納得させて見終わった後に何も残らないハリウッド映画に慣れてしまって、こういった奥の深い部分が読めなくなってしまっているのが残念に思います。

これ以上の説明は野暮なんですよ。要りません。

heso&momo
マスター@だんだんさんのコメント
2012年7月28日

ムーさん、コメントありがとうございます。
だいぶこの作品を気に入られたようで、それでいいのではないでしょうか。
ムーさんのコメントにあるように、映画も含めてあらゆる作品は、その受け取り方に個人差があり、それはお互いの意見を尊重するのがいいと思います。
この作品の場合、実際に子離れを経験したことがあるか、それがすんなりしたものだったか突然のものだったかによっても受け取り方が違うのではないでしょうか。

マスター@だんだん
ムーさんのコメント
2012年7月27日

>なんの葛藤もないのは不自然だ。→一応はセリフがありますよね。「オオカミだっていい。あなただから。」というような。理屈を超えた何かがあるととらえてよいのではないでしょうか?
たしかに、葛藤があるほうが自然だとは思いますが、絵に妙に説得力を感じ、すんなりと受け入れられました。(感覚的なことなので個人差はあるでしょうね)

>話が散漫で、親と子の心が充分に描かれたとはいえず、凝った画づくりよりも花が自身の子離れを受け入れるまでの親の成長を見せて欲しかった。
たしかに、親子のシーン・兄弟のシーンの分量が適切だったのかについては人によって差が生まれると思います。関係をもっと描いたほうが説得力があるのではないかと考える人はいるでしょう。

しかし、子離れというのは徐々に発生するものなのでしょうか?むしろ、大きな出来事(進学・就職・結婚等)に直面することで子離れを受け入れざるを得ない状況に陥り、突然発生するものではないでしょうか?

雨がオオカミとなって親離れするシーンを結婚の場合と比較してみましょう。
先生(キツネ)と会うシーンが交際相手の紹介ですね。
そして、兄弟喧嘩のシーン、この時オオカミとして生きると宣言していますね。これが結婚宣言ととらえることができます。
そして、嵐の一連のシーンが結婚式となります。そして、二度と帰ってこないわけです(ここは結婚も似ていますよね)
こう見ていくと大きな流れとしては不十分だとは思わないのですが、いかがでしょうか。

ムー