「孤独に慣れた現代への優しく激しいアンチテーゼ」おおかみこどもの雨と雪 全竜さんの映画レビュー(感想・評価)
孤独に慣れた現代への優しく激しいアンチテーゼ
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ネット社会の反乱をという今時のテーマを賑やかに描いた前作『サマーウォーズ』とは一転、台詞は極力省き、異端な家族の純粋な愛の成長を静かに追った御伽噺に仕上がっている。
対極の世界観に位置しながらも人間が触れ合う洞察力は深みを増し、アニメにあまり興味の薄い人間でも、最初から最後まで涙が溢れ、止まらなかった。
会話を想像させながら愛を読ませる序盤の味わいは、アニメというより詩の世界に近い。
例えたら、小田和正とか斉藤和義とかかな。
狼に変身してしまう者が家族であるため、夫婦愛に始まり、親子愛で暮れる道のりは、決して平坦ではない。
正体を知られたら命すら危ぶまれる身体だからだ。
自身の運命を受け止め人間社会に溶け込もうと前向きに生きる姉に反し、人間との共存を拒絶して狼の生活を選び、自然界へ戻ろうとする弟。
各々の苦悩と衝突を見守る母親も、自給自足の日々に悪戦苦闘し、村の仲間達の交流を深めていく事で、一家全体の成長へと広がっていく。
緩やかに、それ以上に激しく人生をうねりながら…。
そんな絆の実りを、手間暇かけて育てた野菜が象徴し、やがて訪れるそれぞれの旅立ちを優しくも鋭く覚悟させる。
夫との出逢いと別れが唐突過ぎたのは難だが、独りに慣れっこになった今の自分に、分かち合う大切さを教え込まれた気がした。
孤独社会への強烈なアンチテーゼが観る者の涙の源流になっていると思う。
止まらない涙を拭きながら、最後に短歌を一首
『優しさが 怖いと吠えて 月明かり 土と育む 旅立ちの朝』
by全竜
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