「細田監督のターニングポイントとみるか、失敗作とみるか」おおかみこどもの雨と雪 sigeさんの映画レビュー(感想・評価)
細田監督のターニングポイントとみるか、失敗作とみるか
監督作品は「時をかける少女」と「サマーウォーズ」だけしか見ていませんが
活力・魅力あるキャラクター達がグイグイ物語を引っ張っていき、
最後に突き抜けて爽やかに大団円!!!
細田監督に対して個人的に持っているイメージはこのようなものです。
世間の多くの方が同じようなイメージを持っているのではないかと思います。
今作はどうでしょうか。
“彼”が退場してからの30分くらいは
話がヘビーで爽やかさとは程遠く、
“アレ、こんなはずでは・・・”と。
その前に、雪の出産に至る過程も
「カールじいさんの空飛ぶ家」のまんまではないか!!!
とちょっと憤慨してしまいました。
(それでも素敵なシーンなので「カールじいさん~」の冒頭が素晴らしすぎるということを再認識)
引っ越す前に花が雪と雨に問います。
「人間、狼、どちらとして生きたい?」
後半の展開は、この問いに対する回答で
彼女らは自らのアイデンティティを主張していきます。
そして、子供らだけでなく、
問いた花自身も、
母親としてのアイデンティティを確立していこうともがきます。
しかし、丁寧に描くあまり
この3つの自らのアイデンティティを模索する話が
上手く噛み合っていないのではないかと思います。
雪の“怪我させた問題”が解決したかなと思ったら
それまで暫くスクリーンから遠ざかっていた雨が突然現れ、
“先生に会いに行ってくる”と言い始め・・・。
実際、“先生”が出てきた辺りから
劇場も飽き始めたような空気が・・・。
引っ越した時点で
「となりのトトロ」を連想し、
“山に何かいるんですか”というフレーズに
まさかと思ったがそうならず、
“動物保護センターに狼が保護されている”という状況に
“ひょっとして仲良くなって・・・”と思ったがそうならず。
親切にしてくれたじいさんをはじめ、親切なご近所様が出てきて
これは「サマーウォーズ」的展開で
最後に“じいさんは笑ってエンディングか”と思ったらそうならず。
ある意味、細田監督に期待したものをことごとく裏切る展開でした。
他の方がジブリ作品のようとおっしゃられていましたが、
私は本作はジブリ作品とは相容れないものと感じました。
「サマーウォーズ」のようなある意味、
活劇的な作風を推し進めていくのであれば
万人受けするジブリでも細田監督は重宝されたと思います。
しかし“一人親から見た子”と“自分とはなんぞや”という
結構重いテーマを扱っているので
世間の“紋切型の細田イメージ”を払拭しようという意図も
あるのかもしれません。
今までの監督の作風であれば
絶対最後の台風のエピソードは
それぞれで確立したアイデンティティ生かして
結束して何かに立ち向かうという話になるのに
そうではなく、あくまでも3人を別々にして
それぞれで自己完結してしまうというオチになっています。
ここがこの作品に対する好き嫌いに出てくるのではないでしょうか。
色々不満等は書きましたが、
中盤の年月の経過と雪・雨の個性を
小学校の教室で表現するというくだりは、
やはり“宮崎駿の後継者”と唸らざるを得ません。
また、初雪の中での疾走するシーン、山を下るシーンは
その躍動感に思わず涙してしまいました。
これを機会に、ドラマ系な作品に舵を切るのではなく
“次回は活劇ものがみたいなぁ”と劇場を後にしました。
---------以下、追記------------------------------------
eiga.comの映画評論を観て、さらに思ったことを追記。
自分を含め、劇場に来た本作を見ているのは
世間的には“オタク”と呼ばれる非モテ系の方が多い。
本作は間違いなく、“女性に見て欲しい”と本当に思う。
そして、自分を含め非モテ諸君よ、
花(宮崎あおい)のような女性は現実にはいないぞ!!!
と世界の中心で叫びたい。
ところで、姉が雪、弟が雨。
レビューを書いていて気づいたのですが、
なぜタイトルは“雨と雪”で弟が先に来るのでしょうか。
やはり、監督は“失われた側”への想いが強いのでしょうか。