「もし、原子力がなかったなら、この映画で描かれたように…」グスコーブドリの伝記 aotokageさんの映画レビュー(感想・評価)
もし、原子力がなかったなら、この映画で描かれたように…
1985年公開の劇場アニメ「銀河鉄道の夜」。宮沢賢治の童話をますむら・ひろしがネコのキャラクターで漫画にしたものを杉井ギザブロー監督(最近では劇場アニメ「あらしのよるに」05年も)が映像化した。そのスタッフが27年ぶりに集まり、さらに手塚プロダクションも参加して作り上げた。
宮沢賢治が生きた1920年代に東北は地震や冷害にみまわれ、それが賢治の作品にも反映しているという。このアニメの企画がはじまったのは5年前だが、制作途中の2011年3月に東日本大震災が発生。スタッフたちはこの映画に、東北の復興再生へのメッセージを託したという。
ますむら・ひろしの愉快なネコのキャラクターたちを起用したことでファンタジー色の強い異世界を作り出すことに成功。ジェームズ・ティソやアンドリュー・ワイエスの絵を参考にしたという阿部行夫美術監督によるイーハトーヴの森の情景は絵画のように美しく、街の描写ではレトロ調な近未来世界をも創造している。
イーハトーヴの森で、木こりの父と料理上手な母、兄を慕う妹ネリと暮らしていたブドリだったが、冷害が襲い幸せな生活は一変してしまう。最後の食べ物を子どもたちに残して両親が森に消えるなどの悲劇の描写があっさりしていて、よくわかりづらい。人攫いに連れて行かれる妹ネリの行方も、より幻想的な描き方だったが、そこは原作通りの結末にした方がまだ救われたように思った。
子供だったブドリが出会いと別れをくり返す成長物語になっている。
この映画の世界では火山の研究開発が盛んだ。もし、原子力がなかったなら、日本でも代わりに火力が発展し、今回のフクシマの悲惨な出来事も避けられたのではないかとも思った。