「カーテン越しの恋」なま夏 レントさんの映画レビュー(感想・評価)
カーテン越しの恋
僕と彼女を隔てる一枚のカーテン、二人の距離は近いようで遠い。ともすればたやすく乗り越えられそうな一枚の布切れが僕にとっては鉄のカーテンのように強固なものに思われた。
彼女はストーカーされた挙句にその相手に刺されてしまった。見舞いに来る彼氏は彼女の身を案じるどころか性的対象としか見ていない。彼女はすっかり落ち込んでしまっていた。そんな彼女を僕は励ましたかった。あの手この手で僕は彼女を楽しませようとした。僕は彼女の笑顔が好きだった。
通勤で同じ電車に乗り合わせる彼女を一目見た瞬間、僕の鼓動は高鳴った。彼女の透き通るような白い肌、湿り気を帯びた分厚い唇、白いブラウスに覆われたはちきれんばかりの身体。僕は一瞬で彼女の虜となった。僕は彼女に恋していた。
これはきっとプラトニックな思い。彼女へのその思いを抑えられず僕は彼女のポートレートを撮影しまくり壁は一面彼女の写真で埋まった。それでも僕の一途な思いはとどまることを知らず、体は熱くなる一方だ。だから体にたまったこの熱を定期的に放出しなければならなかった。
僕は勇気を振り絞り彼女に思いをぶつけることにした。この僕の純粋な思いを彼女ならわかってくれるはず。しかしプレゼントのぬいぐるみに仕込んだ盗聴器から聞こえる彼女の声は僕を失望させた。ショックで僕は自死を選んだけど死にきれず運ばれたのが彼女のとなりのベッドだった。
僕らはカーテン越しにお互いの見舞い品を交換し合ったりした。彼女は僕の天狗のお面を気に入ってくれた。お互い顔が見えないながらもそんな僕たちの微笑ましい関係は続いた。
退院間近の彼女が言った。退院したら外で会いましょうと。僕はどぎまぎした。彼女は僕に好意を抱いている。でもそれはあくまでもカーテン越しに関係を築いた相手に対してだ。もし僕の素顔を見れば失望するに違いない。それに僕こそが彼女を襲ったストーカーだった。
僕は彼女の前から姿を消す決心をした。それが彼女にとって一番いいことなんだと思えた。その時隣のカーテンの向こうから何やら聞こえてきた。別れたと思っていた彼女の彼氏が戻ってきていたのだ。二人は秘め事を始めている。その声を聴いて僕の心はかきむしられた。深い悲しみと絶望感に襲われた、と同時に僕の体が熱くなるのを感じた。僕は秘め事の音を聞きながらたまらなくなって熱を放出した、そして熱い涙が頬をつたった。
僕は彼女を純粋に愛していたのだろーか、それとも単にAV女優のように性的対象として魅了されていただけなのだろーか。僕のプラトニックな思いと獣欲が僕の中で戦いを続けていた。
気が付くと僕は二人の前に仁王立ちしていた。僕を見つめる彼女の瞳が恐怖をたたえていたのをいまでも覚えている。
次の瞬間、僕は絞首刑台に立っていた。二人殺したのだから死刑は免れなかった。僕の体は宙に投げ出され、そしてあたりは光を失い静寂に包まれた。
自らの獣欲に負け嫉妬に狂い凶行に走ってしまった哀れな男の恋物語。入院中のベッドでタブレットにて鑑賞。当然カーテン越しのとなりのベッドは僕と同じおっさんでした。