「塩吹き黒Tシャツの説得力」苦役列車 cmaさんの映画レビュー(感想・評価)
塩吹き黒Tシャツの説得力
のっけから、昭和の匂い。主人公の登場を待つくすんだ町の情景に、素っ気なくクレジットがかぶる。ああ、かつての邦画やテレビドラマのつくりってこうだったな、と思う。その時は最新だったはずのあれこれは、数年たつとあっさり色あせ、古ぼける。そうなると見向きもされない。けれども十年も経てば、「あの頃」を思い出させてくれ懐かしいと再びもてはやされる。…それって、あまりにも安直すぎないか?本当のところ、中身はどうなんだ?と感じることがしばしばある。
本作も、舞台は「かつて」の80年代。主人公・貫太の友人・正二のラガーシャツやスポーツバック、康子のふわふわしたセーターやロングスカートは、確かに当時を彷彿とさせる。
ところが、どうだ。貫太は「今」そのものを生きている。そこらにぬぼーっと立っていそうな存在。きっと、いつ観ても「今」を感じさせるだろう。わしわしと白飯をかきこみ、重い袋を持ち上げる。何より衝撃を受けたのは、彼の黒いTシャツについた白い汚れ。壁でもこすったのか?…と頭をめぐらし、はっとした。白いものは、彼の汗をが乾いてできた塩だ!
汗が塩になるには、汗が乾かない状態が必須。それには、ひっきりなしに汗水流すだけでは足りない。汗を受け止めきれない、吸水が悪く乾きにくい安っぽい布地(最近のドライ機能つき特殊素材ならば起こり得ない!)の服も条件になる。そしてもちろん、貫太は、ろくに洗濯せず、何日も着続け、日々塩を量産しているのだろう。
ダメダメ男の物語をどう結末付けるのか…が途中から気になったが、期待は最後まで裏切られなかった。ドスン!と豪快で軽やかな落下。小説と異なる、映画ならではの幕切れ。鮮やかこの上なかった。
貫太は、今も相変わらず、そこいらをうろついているはず。でもそれは、「一見」に過ぎないのかもしれない。変化は、じわじわと、ある日突然やってくる。