「二兎を追う者は一兎をも得ず」危険なメソッド arakazuさんの映画レビュー(感想・評価)
二兎を追う者は一兎をも得ず
心理学にあまり詳しくない人でさえフロイトとユングの名前くらいは知っている。
ユングの患者であり愛人であり自身も後に心理学者となり、フロイト、ユング両者の理論に影響を与えたザビーナという女性については今作で初めて知ったが、登場人物はすべて実在の人物である。
しかし、何故か、この登場人物がリアルに感じられない。彼等が何故そう行動するのか、どうにも唐突に感じてしまう。
ザビーナが回復して行く過程も彼女とユングが惹かれあって行く過程も表面的な描写しかなく、後の二人の行動は理解に苦しむ。
こちらの方が幾分マシとは言え、フロイトとユングの関係についても、何が二人を結びつけ、決裂に至った決定的な理由は何だったのか、充分に描かれているとは言えない。
ユングとザビーナ、ユングとフロイト、両方の関係を描こうとして、どちらも表面的で中途半端になってしまった印象が否めない。
興味深かったのは、フラリとユングの元を訪れるフロイトの弟子であるヴァンサン・カッセル演じるオットー・グロス。
自らも心理学者であり、ドラッグ中毒者である彼は、ラストで後にベルリンで餓死したことが明かされるが、かなり破天荒な人生を送った人物だったらしい。
登場シーンは少ないが、ザビーナとの関係に対してユングの背中を押すのは彼だ。
夫の気持ちがザビーナに向いていることに気づきながらも、彼を支えるユングの妻も印象的。一番全体が良く見えているのは間違いなく彼女だと思う。
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