「クローネンバーグの作品としては地味でクセが無い」危険なメソッド mittyさんの映画レビュー(感想・評価)
クローネンバーグの作品としては地味でクセが無い
1904年、チューリッヒのブルクヘルツ病院 8月17日
一人の若い女性が激しく抗いながら、精神病院に担ぎ込まれるところから始まります。
クローネンバーグの映画だと気付かず観てしまいました。
クローネンバーグにしては、独特なクセもなく。ちょっと地味で実話に忠実で普通という感じがしました。
自分は心理学などに少し興味があり、放送大学で何個か心理学関係の講義を受講したことがありますので、そこそこ、興味深く観ることができましたが、フロイトやユングなどに全く興味のない人にとっては、退屈な映画かもしれません。
キーラ・ナイトレイの神経症患者(おそらく、いわゆるヒステリー患者)の演技はなかなかのものでした。顔をゆがめて、アゴを突き出し苦しそうにする姿が印象的。お尻をむち打たれることに快感を覚えるとは、マゾヒズムなのか。このザビーナ・シュピールラインという女性の存在は知りませんでした。後で調べたら実在して、ユングと恋愛関係になったことも事実のようでした。
フロイトとユングが仲違いをした話は有名ですが、フロイトという人は、自分と違う意見を持つ人や自分の考えに共鳴しない人などをとことん責めて、その人の精神が病んでしまうほどの鋭い影響力を持った人のようでした。ユングもフロイトと決別した後は、やはり精神を病みますが、この映画では、フロイトはマイルドに描かれているように思います。本当のフロイトはもっと、もっと面倒くさいおっさんやったと思います。
ユングがフロイトから離れていったのは、フロイトが何もかも、「性的」解釈することに疑問を抱いていたからですが、映画ではそのあたりのことをリビドーの話もまじえて、一般人が理解できるようにうまく描かれていたと思います。
全体的に淡々と物語は進んでいきますが、出番は少ないけれどグロスというやんちゃな医師の存在でハッとしました。ユングが「フロイトによる神経症は性衝動に起因する」といったら、
グロスが「彼は自分がヤれないから性に執着するのさ」
などとひどいことを・・・笑 でも、エンディングの説明でグロスはベルリンで餓死とあって、淋しい最期だなと思いました。
実話に基づいた精神臨床(ヒステリー患者を治療する)を描いている作品に『博士と私の危険な関係』(2012)というフランス映画があります。これは、フロイトの師である精神科医シャルコーとその患者の恋愛(転移)が軸になっています。タイトルは俗物的ですが、内容は古典的な精神療法の話。こちらも、女優さんは熱演でした。