劇場公開日 2012年11月23日

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綱引いちゃった! : インタビュー

2012年11月9日更新
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玉山鉄二が見据える、遠回り覚悟の今後 際立つ“ひらめき”の真意

俳優・玉山鉄二の近年の躍進には、目を見張るものがある。映画はもちろん、ドラマ、CMと引っ張りだこの存在で、あらゆるキャラクターを見事に演じ分ける器用さもあわせ持つ。井上真央主演作「綱引いちゃった!!」では、シイタケ農家を営む青年・熊田公雄を愛嬌たっぷりに熱演。井上をはじめ松坂慶子、浅茅陽子ら女優だらけの撮影現場でも独特の存在感を放った玉山に、話を聞いた。(取材・文/編集部、写真/キムアルム)

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玉山は、今作で井上扮する大分市役所広報課勤務の西川千晶に一目ぼれし、女子綱引きチームのコーチに就任する、微妙にズレた感覚の持ち主を演じきった。オファーを受け、脚本を読んだ当初を「公雄のキャラクター像のふり幅がすごい部分と突拍子のない部分があって、彼にウザさやかわいらしさを兼ね備えて愛らしいキャラクターとして作り上げたいと思ったんです」と述懐。大げさなリアクションを含め、新境地開拓といえる役どころとなったが「コメディって自分でジャッジできないと思うんですよ」と、あくまで冷静だ。「ヒューマンな作品やサスペンスだと、リアリティに近いとか毒があるとかジャッジできると思うのですが、笑いに関して言うと自分のセンスだったりするので難しいんですよね。あまり計算せず、現場のノリやひらめきを大事にして演じてきたので、自分の評価はわからないです」

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井上との映画での共演は、井上の銀幕デビュー作「チェケラッチョ!!」以来、約6年ぶりとなった。井上の存在は、今作には欠かせないものだったといい「(撮影の過程で)自分が台本を読んだときよりも家族愛、ヒューマンの要素が強くなっていました。真央ちゃんがひたむきで真面目な女性を演じてくださったことが、この映画のストーリーの“骨”になっていた。僕たちとしては軸がある分、自分の行く道を進んで、たまに道から外れたり好き勝手なことをやっても、彼女の“骨”があるから土台がしっかりしていたんですよ」

劇中で、井上とは綱引きチームのコーチとキャプテンとしてメンバーをまとめ上げていくなかで、居酒屋で酒を飲み交わすなど共演シーンは枚挙にいとまがない。「チェケラッチョ!!」ではほとんど共演シーンがなかったそうで、「ほぼ初めてみたいなものです。強さが全然違うというか、セリフや表情にしても、彼女が抱えている心情や意思に説得力があるんです。だから僕なんか年上ですし、周囲の女性メンバーにしたってほとんどが年上なのに、すごく頼りがいがありますよね。安心できるから、頼っちゃうんですよ」と全幅の信頼を寄せる。

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また、これまで水田伸生監督と仕事をする機会はなかったものの、「いつかご一緒したいと思っていた」だけに今作でのオファーは驚きとともに喜びもひとしおだった。現場での水田監督は、「役者が現場に持ってくる感覚をすごく大事にしてくださったんです。リハーサルの段階で、何かをひらめいたらやってみて……の繰り返しで、要所を締めるとき意外は、ほとんど何も言われませんでした」と振り返る。それだけに、「自分の引き際と出て良いところの兼ね合いというか、そこは自分で守らないとキャラが崩壊してしまいますし、映画の軸からも外れてしまう。その点はルールを守りながら演じたつもりです」と自らを律しながらの役への肉付けについて明かした。

コーチに就任した公雄が、練習や試合でメンバーを鼓舞するための掛け声「ドーン!」は、玉山のアドリブだった。セリフにはなかったが、「何で言ったんでしょうね(笑)。今となってはわからないです。ありきたりな掛け声だと面白くないというか、耳にキャッチーに残らないと思っていて、五十音順に探していたんですよ。バーンとかビーンとか。そうしたら、ドーンかなあと思ったんでしょうね」と穏やかに笑う。今作で、そこはかとなく漂ってくる玉山のアドリブ性が、水田監督および共演陣との信頼関係から成り立っているということは、前述のエピソードからもうかがえ、だからこそ成せた業といっても過言ではない。

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今作では風間杜夫、笹野高史らが男性キャストとして脇を固めているが、主要キャストに名を連ねたのは玉山のみ。周囲は経験豊富、個性あふれる女優陣に囲まれる格好となった。実姉が3人いる玉山は「僕なんかがおこがましいですが、良い潤滑油じゃないですけれど、いろいろと取り持つことができればいいな」と思っていた。ところが、撮影前に全員が集っての本読みがなかったのにもかかわらず「クランクインしてみたら、皆すごく仲が良かったんですよ。撮影初日に主要スタッフ、役者とで食事に行ったんですが、そのときから形が出来ていたので『大丈夫なんだな』と感じました」と話す通り、昨年11月のロケでは、多くの女優陣に囲まれながらもひょうひょうとした面持ちで過ごす姿が印象的だった。

30歳を越え、着実にキャリアを積み重ねてきたことで、映画出演も30本を突破した。さらに特筆すべきは、この5年間で14本の作品に彩りを添え、主演からキーパーソンまで、ありとあらゆる役を体に染み込ませてきた。玉山にとって、映画とは「表現のひとつとして、僕の中ではプライベートな教科書だと思っています。映画にたずさわるようになって、本を読み、実際に演じてみて糧になったことはたくさんありましたし、社会に対して思うこともできた。ふだん、あまりフックにかからないことに対して、きっかけをつくってくれる作品もたくさんありますし、人との接し方について改めなければいけないな……といったことも感じさせてくれる。そういうこともひっくるめて、教科書みたいなものだと思うんですよね」と語る眼差(まなざ)しは、どこまでも真摯でまっすぐだ。

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個人的に最も訴求したい年代は「中学生や高校生」だという。「その年代って、僕自身も多感でいろんな作品に影響を受けたし、不満もいっぱいあった。不満が不満ではなかったんだと誤解がほどけるきっかけになった作品もありました。エンタテインメントには、楽しいものを見て楽しいと思うものと、汚いもの、見たくないもの、毒を見て改めなければいけないと思うがあると感じているんです。自分のなかでは、そういうものをバランスよくというか、作品のメッセージ性を大事にしながら発信できたら、すごくいいなと思います」

さらに、演じる者として5年後、10年後を見据えたときに感じることは「そのときどきに合った感覚とかひらめきを大事にしていきたいから、その瞬間、瞬間の自分に正直にジャッジすることですかね、いま大事にしていることは」と一点を見据えながら説明する。そして、「自分に正直に向き合って、あまり媚びずに作品選びなどをしていれば、遠回りかもしれないけれど絶対に報われると僕は信じているんです。そこで違う自分を出しちゃうと、いろんな仮面で自分を覆って、気が付いたら自分の表情がわからなくなるんじゃないかと。そこに気をつけて、生き方としては下手かもしれないけれど、人生1回しかできないわけですから、それでいいんでしょうね」と打ち明ける姿には、どこにも“慢心”はなく今後の更なる活躍を予感させられた。

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