よりよき人生のレビュー・感想・評価
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愚か者も美点
自己資金0でレストランを開業しようとすること自体無謀だが、これ程酷い状況になる前に引き返すことは出来た。
しかし、ヤンは“自分の店”に固執するあまり、利益が出るうちに店を売れという助言を聞き入れない。
とにかく進んでみてやってから考えるというヤンには同情出来ないのだが、そんな彼にも美点はある。
(モントリオールでの仕事の為カナダへ行った)別れたはずの恋人ナディアから彼女の息子スリマンを預けられても断らない。
母親と離れた寂しさから万引きしてしまうスリマンをキチンと叱るし、どんなに苦しい状況になってもスリマンを放りだそうとはしない。
ヤンは悪い人間ではないのだ。
それでも、世の中にはそんな彼の愚かさにつけこもうとする人間に溢れている。
ありふれた人間のありふれた愚かさにつけ込んでくる。
悲しいかなそれはリアルな現実で、観る側はヤンとスリマンをハラハラしながら見守ることになる。
ラスト、スリマンと母親ナディアは再会し、ハッピーエンドを思わせるが、ヤンの借金はなくなった訳ではないし、カナダへの渡航費用は店を安く買い叩いた怪しげな貸金業者から奪ったものだ。
彼等三人の再出発、前途には雲がないわけではない。
この辺りのほろ苦さはフランス映画ならではかもしれない。
無計画は自殺行為に等しい!ご利用は計画的に!
予告編でこの作品は、男の描く夢に賭けた、シングルマザーとその息子の3人で、仲良く夢実現へと励む彼らのハッピーエンドで、元気になれる映画のイメージが強かった。
しかし個人的に、私は本作には、失望した!幻滅する後味の悪い映画だ。
35才になるヤンは、学食のコックをしている。しかし将来は立派なフレンチレストランのシェフに成る日を夢みて、仕事の合間に転職活動中。
或る日、彼が面接に行ったレストランで働いていた、ホール係のナディアに一目惚れ。2人は、その日にベットイン。これも恋する人生を生きるフランスの話だと、我慢して私は観ていた。(余りにも、リアリティーに欠けている気もしていたのだが)
彼と一夜を共にした朝、ナディアは自分がシングルマザーであり、9歳半の息子のスリマンがいる事を打ち明ける。19才の時に、彼女は故郷のレバノンで、息子を産んだと告げ、子供の父親はいないと告げる。
この時点で私は、こう言う自己中な女性を見ていられない。感情移入が出来なくなる。
しかし、19才の過ちは、致し方無いと妥協しても、今回も出会って直ぐに、身体を許す女性ってどう言う人か神経を疑う。過去の経験から、何も学ばないヒロインには同情出来ない。しかし、人間は一目惚れする事が有るので、再び妥協し、許す事にする。
この新しい彼氏ヤンは、気の良い奴で息子とも仲良しになる。そして、3人で出掛けた或る日、古い空き屋を見つけると、直ぐにその物件を買い、レストランオープンに向けて、彼女と準備に入る。しかし、この2人は手持ち資金がゼロで、借金地獄へと転落する。
この男も、行動力が有るのは認めるが、無計画で、無責任だ。すると彼にも私は感情移入不可となる。
その後、彼女は彼と一生借金地獄の人生はゴメンだと、カナダに一時的に条件の良い仕事をする為に、息子をヤンに預けて、カナダへ行ってしまう。
ヤンも、ゴリ押しで、レストランの開店をしようとする無計画野郎なら、ナディアも一人息子を信用出来なくなったヤンの処へ置いたままカナダへ行くなど、信じられない!
いくら、生活が落ち着いたら、呼び寄せると言っても身勝手だ。
私は日本に生れ育っているので、移民の苦労は理解出来ない。移民の人々が味わう世の中の苦労を私は知らない。つまり、私は甘い世間知らずの日本人と言う事なのだろうか?
彼女が、少なくとも母親としての自覚を持っているなら、彼と別れて、息子と国内で暮らすのが普通だと私は考える。
ヤンは、血縁関係の無いスリマンの面倒をみるのだが、借金地獄の生活を強いられる為に或る日、幼いスリマンが、スニーカーを万引きする。ヤンは、絶対に万引きを許さず、徹底的にスリマンにその事を教え込むところで、初めて私は、心がホッとする。
しかし、その後、ヤンは消費者金融の悪党どもから、お金を横領して、スリマンと共に彼女を追ってカナダへ逃亡する。確かにヤンのレストランを安く乗っ取ろうとした悪人から金を取り返したと言えなくも無いが、これでは、スリマンに盗みを叱ったヤンの良心はどうなるのか?人生は綺麗事では済まないが、これではヤンはスリマンに顔向けが出来ないと思ってしまうのだが、それでもこの状況では、ヤンは正しいのか?
スリマンの母を訪ねる事こそが、重要なのだから・・・
衣食足りて礼節を知るとは真実であるようだ。
こうして、人間は罪を抱えて生きてゆく事になってしまうのだ。
何とも、悲しく、哀れなお話だ。ラストは雪のカナダで、ヤンとスリマンが仲良く、ナディアの出所を待つところで終わるのだが、しかし、いくら雪の道を走る2人の姿を観ても爽やかな気持ちには、なれなかった。
それは、私が単に苦労知らずの、理想主義者なのか?
どんなに、生きる現実が厳しくて、理想の生き方が出来ないのが、この世界の事実でも、映画には理想の生き方を描いて、真面目に生きる人が、希望を持って生きる事を見せて欲しいものだ。
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