よりよき人生のレビュー・感想・評価
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愚かさの意味
ああ、この物語はどこにたどり着くのだろう…。途中から、ハラハラというより暗澹たる気持ちになった。レストランの開業という夢の実現に燃える主人公は、あれよあれよと借金にまみれ、次々に拠りどころを失っていく。出口は見えない。後半で挽回し、鮮やかな逆転劇に持っていくには、あまりにハードルが高すぎる。彼にどんな悲劇が待っているのか。もしや、野たれ死にか。そんな気持ちが膨らみきったところで…鮮やかに裏切られた。そうくるか、というふんわりした幕切れ。思わず顔の筋肉が緩んだ。
彼と行動を共にする、9歳になる恋人の息子が、またいい。けなげでも賢くもない、むしろ愚かな子ども。生活苦を察していながら、クレープを食べたがったり、高い靴を万引きしたり。挙句に、生活費半月分の靴を買い取るハメになった男が、やっとの思いで整えた食事を、怒り任せにテーブルから払いのけてしまう。
そんな子どもを、男は放り出そうとしない。頑なに、繋いだ手を離さない。なぜそこまで…なんと愚かな! しかし次第に、揶揄のはずの「愚かさ」が、不思議なぬくもりと輝きを放ち出すのだ。
前進するはずの主人公は、結局は後退したのかもしれない。得るより多くを失い、取り返すことすらできていないのかもしれない。問題はまだまだ山積みだ。それでも彼は、物語のはじまりよりずっとしっかりと地に足をつけ、広がりある世界を捉えている。そんな物語を、私は好む。
フェリーニの哲学
日本で幅を利かせている自己責任論。
私だったらもっと慎重に生きるし、こんな馬鹿げた生き方や愚かな事はしない。ごもっともです。
でも、愚かなのも人間なのです。愚かでも貧しくても精一杯今を生きているのが、人間なのです。まさしく、フェリーニですよね。
今作も例外ではなく、ヨーロッパ映画の根本的な部分には、フェリーニの哲学が受け継がれているなと感じます。
やるせない。
やるせない。
貧困故のやるせなさ。昔の「鉄道員」「自転車泥棒」「道」などのヨーロッパ映画の系譜かなぁ・・。
終りかたに、少し希望を見出せたけたけど・・^^;
これから、未来を生きる若いカップルはデートで観ないほうがいいかも^^;
涙が止まらない!貧困ビジネスに打ち砕かれそうになっても夢を諦めない青年の愛
こんにちは。
グランマムの試写室情報です。
『よりよき人生』
もう今年の暫定ベストワン映画に出会ってしまいました!とにかく、主人公たちに感情移入し、胸が詰まって、そして涙が止まりません!
前の日記で、『塀の中のジュリアス・シーザー』をご紹介した際、“映画が始まって100年経っても、まだ本作のような、今まで見たこともない作品に出会える喜び”をお伝えしました。
今回も、多くの映画を観てきた人生の中で、まだこれほど新鮮な感動を与えてくれる作品に出会えるのだ!と、映画の神様に感謝したい気持ちでいっぱいです。
フランス映画の持つ美質が、全て備わっているような作品です。皆さんに早くこの映画を見て頂きたくてたまりません。何とも、主観的な出だしになってしまい、試写評らしくないですね。それほど、この映画には感情移入してしまいました。
監督は、名匠のセドリック・カーン。本作が9本目です。日本での公開作品が少ないのが残念ですね。40代にして既に円熟した表現力・演出手腕には驚くばかりです。
本作の成功は、主役のヤンを演じるギョーム・カネに負うところが大きいでしょう。『戦場のアリア』『フェアウェル さらば悲しみのスパイ』の他、ハリウッド作品ではデカプリオと共演した『ザ・ビーチ』が、記憶に残っている方も多いでしょう。
ゴシッピーな話に逸れますが^^;、最初の妻はダイアン・クルーガー、そして今はマリオン・コティアールとの間に男児を設けているのです!なんと、超絶美人ばかりと結ばれている!モテるのでしょうねぇ。本作を観れば、その魅力が分かります。
ヤンは、自分のレストランを持ちたいと願いながら、学食の調理人をしています。シェフの採用面接に行ったレストランでウェイトレスをしているナディアと出会い、恋に落ちます。
ナディアはスリマンという9歳の息子を持つシングル・マザーでした。スリマンとも仲良くなったヤンは、3人でドライブに行った湖畔で、自分が夢見たレストランに最適の廃屋を見つけます。
早速、銀行で融資審査を受けますが、手持ち資金はわずかしかありません。頭金を捻出するため、ヤンは高金利のヤミ金に手を出さざるをえませんでした。物件は手に入れたものの多重債務者となってしまいます。
ナディアには、その事実を隠したままでしたが、次第に店らしくなっていく様子に、夢を膨らませる2人。しかし、設備にかけるコストを省いたため、消防署の営業許可が下りず、開業できなくなってしまいます。
債務整理の相談窓口では、これ以上の債務を追わないためには、即刻、土地を手放すしかない、と助言されます。「冗談じゃない!あれは俺の店だ!」と助言に従わないヤン。しかし、過酷な返済を迫るヤミ金業者から逃れながら、資金繰りを続け、神経をすり減らしていきます。
追い詰められた3人は、どうなっていくのだろう?疾走感溢れる展開に、まるで目の前で起きている出来事を観ているような感覚で、手に汗握ってしまいます。胸が詰まり、中盤からは涙が止まらないほど、完全に登場人物たちに思い入れしてしまいました。
本作のテーマは、“夢”と“おカネ”、そして“家族の在り方”“再生”だと感じました。ヤンのささやかな夢も、自己資金が用意出来なかったばかりに、坂を転げ落ちるが如く、人生も転落し、叶いません。
日本でも社会問題になっている“貧困ビジネス”。フランスでも同じく、ハイエナのような輩がいるのだな、と悲しくなり、輩を憎みました。貧困層が暮らす地域の生活ぶりをカメラは見事に活写しており、リアリティに満ち満ちています。
「そんなところからは借りなければいいだろう」「無理な資金計画をするからだ」と、多くの人は、多重債務者に対して否定的にみるでしょう。ただ、毎日、そうした人たちの相談を受けている立場として、皆さんに理解して頂きたいことは、“貧しい人、困っている人ほど、悪い条件を呑まざるを得ない”のです。
前半、ヤンの純真無垢な明るい面を観ているだけに、観客は借金地獄に陥ってしまった主人公の痛み、苦しさ、切なさに、やるせない気持ちにさせられます。反撃に出るヤンの行動には、賛否があるかもしれません。
ただ、多くの試練や困難を掻い潜りながら、家族と再生し、夢への道を進んで行くヤンの行動力、決断力には、無条件で拍手を送りたくなります。イノセントな魅力を持ったギョームだからこそ、暗く卑屈にもならず、演じ切れたのではないでしょうか。
レバノン移民のナディアを演じるレイラ・ベクティは、イタリア映画の話題作『ジョルダーニ家の人々』にも出演している注目女優。本作でも人生のやり直しを求めるシングルマザーを魅力的に演じています。後半、息子を思う母性溢れる演技には、涙を禁じ得ません。
その息子は、映画初出演という役名と同じスリマン君。まるで演技をしているとは思えないような自然体で、大人たちの空気を引っぱって行きます。
単に、『より良き人生(原題 A BETTER LIFE)』を望んだがために、運命は二転三転していく‥‥。本作を観て、イタリアン・リアリズモの傑作として名高い『自転車泥棒』を思い出しました。
ご覧になった方なら、お分かりだと思います。ささやかな夢を打ち砕かれ、苦難を乗り越えながらも、時に誤った選択をしてしまう‥‥。そうしたことが、私たちの身の回りにもあるでしょう。でも、打開策はきっとある。夢は必ず叶う、そんな勇気を与えてくれる映画です。
2月9日から、新宿武蔵野館などで上映されます。皆さんの人生のうちの、111分をこの映画のために捧げてください。どの方にもお薦めしたい絶品の映画です!
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