「人生何があるか分からない」アルバート氏の人生 kenMaxさんの映画レビュー(感想・評価)
人生何があるか分からない
主演のグレン・クローズは男性としての役柄を上手く演じていました。
観る前から女性が男装していると知っていたので、女性っぽさを探せば女性だと分かりますが、
何も知らずに観ればちょっと女性っぽい男性なのだろうと思うだけかもしれません。
美術も良く出来ていたと思います。
当時の雰囲気や、映画全体の色調を決めるポイントだったように思います。
この作品のテーマは「愛」というよりも「孤独」だと思いました。
女性が男性のフリをして生きていかなければならなかった時代背景や国の問題もあるとは思いますが、
何よりも人と人の繋がり。それもかなり深い意味での繋がりを求めた主人公の物語です。
10代の頃に一人身になり、ある出来事がきっかけとなって男性として生きる道を選びます。
ホテルで使用人として住み込みで働き、部屋には給料とチップを床下貯金して、自分で店を持つという計画を着々と進行中です。
そんなある日、職人のヒューバートがホテルの修繕にやってきますが、職人を泊める部屋が無かったので一日だけ主人公アルバートと相部屋になります。
このヒューバートがアルバートの人生を変えます。
職と伴侶があり、とても充実した日々を送っているヒューバートですが、彼もまた秘密を抱えています。
部屋に泊めたことでお互いの秘密を知る事となり、アルバートはヒューバートの生活に憧れを抱くようになります。
出店計画を伴侶と共に生活する場にグレードアップし、伴侶探しも開始します。
そして、伴侶として女性を選択しました。
なぜ自分が女性に戻って男性を伴侶としないのかという疑問が出てきますが、
これはアルバートが男性として生きると決断したある出来事が影響していると思います。男性を伴侶とするのは嫌なのです。
女性が職を得るのが大変な時代だったと言っても、アルバートの場合、自分が働いているホテルのオーナーは女性ですし、
自分で貯めた資金で店を出すのですから職はあります。それでも伴侶は女性なのです。
この女性を巡り、アルバートは希望を抱き、苦しみ、それでも新しい生活を夢見て前に進もうとします。
一人で静かに店をやりながら生きる道を選ぶ事もできたはずなのに、あえて困難な道を選びました。
それだけ彼女は"孤独"だったのだと思います。
親、兄弟、子も無く、友人も居ない、何十年も自分を偽り男性として生き、同僚とも言葉少なに生活し、店を出すという夢の中でも一人きり。
彼女にとってはその孤独が当然であり、それが自分の生きる道だったはず。
しかし、ヒューバートが現れた事で"孤独"を再認識してしまったのです。"孤独"の苦しみや辛さを思い、心を共有できる誰かとの繋がりを求めました。
それはアルバートにとって、生きている実感を感じられる唯一の時間だったのかもしれません。
一見、奇を衒ったような作品に見えますが、性別がどうとか関係無く、
一人の人間が人との繋がりを純粋に求めた、悲しくも人間味のある作品だと感じました。