「FBI長官であろうと、人間がしっかりとしたたかに生きるには愛と同志が要る」J・エドガー Kazu Annさんの映画レビュー(感想・評価)
FBI長官であろうと、人間がしっかりとしたたかに生きるには愛と同志が要る
8代の大統領に仕えたFBI初代長官J・エドガー・フーバー(1895〜1972、1924〜1972まで長官職)の生涯を、ファイリング術体得、科学的捜査機関としてのFBI組織の創設、長期間権力維持の方法、秘書ヘレン・ギャンディとの長期の同志的関係、母親との濃厚な関係性、副長官クライド・トルソンとの恋愛関係等、多面的に描いた映画。
長所も短所も、善も悪もそのまま、一人の歴史的人物の真実の姿を、出来るだけ描こうとするイーストウッド監督の姿勢に敬意を覚えた。同時に、一つの分野の米国史にもなっていて、大変に興味深かった。
クリント・イーストウッド監督による2011年公開の米国映画。脚本はダスティン・ランス・・ブラック(2008年ミルクでアカデミー脚本賞、同性愛者であることをカミングアウト)、撮影がトム・スターン(硫黄島の手紙等撮影で知られる)、音楽がクリント・イーストウッド。配給はワーナー。
主演がレオナルド・ディカプリオ、他ナオミ・ワッツ、アーミー・ハマー、ジョシュ・ルーカス、デュディ・デンチらが出演。
秘書ヘレン・ギャンディを演じたナオミ・ワッツの抑えた、しかし計算し尽くされた演技が素晴らしいと思えた。プロフェッショナルとしての彼女の上司への忠誠心や思い遣り、そして葛藤、同志としての共感が感じられた。イーストウッドによる背景のピアノが奏でる音楽も良い。
主演レオナルド・ディカプリオは写真で見る実在のフーバにそっくりで驚いたが、そっくりにすることに演技の主眼を置いた印象で今ひとつ。また、クライド・トルソン演じたアーミー・ハマーも、老年期のメイキャップ及び動作障害の演技が不自然で感心せず。
ただ、吃りをそして弱さを克服しようと自身を叱咤激励しながらの科学的捜査機関構築の奮闘努力。ゲイを悪とみなし決して許さない古くて強い母の下、紆余曲折はありながら長期に渡り二人の深い愛を継続させた。その物語・描写には、リアリティと人間がしっかり生きるには愛が重要との強いメッセージ性が感じられた。