がんばっぺ フラガール! フクシマに生きる。彼女たちのいま : インタビュー
小林「かなり遅れて入ったので、フラガールの皆さんとの距離感を徐々に近づけていくドキュメントを意識したところがあるんです。ドキュメンタリーは取材者の主観でしかない部分もあるので、自分のドキュメントでもあるという考え方でそのまま使おうと。最初は、28人に挨拶をされても見分けがつかなかったし、しかも、キャラバンのバスに男が1人で乗っている状況ですから、女子高に放り込まれた男子みたいなもの。皆さんが優しく受け入れてくれたので、途中のパーキングエリアで降りないですみましたけれど(笑)。僕が驚いたことは、観客も同じように感じてくれると思いますよ」
だが、キャラバンでは行く先々でさまざまな取材が入る。それは、東京電力福島第一原発の事故で警戒区域となった双葉町出身の大森にとっては、かなりの負担となっていった。
大森「双葉町というだけで、いろいろと嫌なことも答えなければいけない。自分は話したくないし前に進もうとしているのに、なんで思い出さなきゃいけないのという気持ち。それが中途半端なまま報道されて、周りに伝わっていくことが許せない部分もあって、映画を撮ると聞いたときも複雑でした」
それでも小林監督や石原仁美プロデューサーの意図を聞き、交流を深めることで信頼関係が芽生えていく。大森も「映画をきっかけに自分が変われば、一緒にいろいろと発信できるのでは」という考え方に変わる。小林監督も、防護服を着て双葉町に足を踏み入れるなどして彼女の思いを受け止め、映画は中盤以降、大森の視点が中心となっていく。
小林「福島がこれから抱えていく一番の問題は原発。実際に(双葉町に)行くと、セミの声は聞こえるし、なぜここに住めないのかというくらい普通の状態。やるせないというか、目に見えない放射能というものにすごく衝撃を受けました。解決のしようがない非常に大きな問題ですけれど、大森さんの“カメラと向き合っていこう”という強い決意を感じたので、僕もこれはきちんと映像に残して、海外も含め多くの人に伝えていく必要があると思ったんです」
撮影の途中に10月1日のハワイアンズの再オープンが決まり、映画のクランクアップも同日に設定。復興を印象づけるには最適なクライマックスといえる。当日は多くの来場者が訪れ、久しぶりにホームで観客を前に踊った2人もうれしそうに振り返る。
マルヒア「自分たちのホームグラウンドで踊ることができたのはすごい喜びであり、こんなに楽しいものだったんだという感覚がありました」
大森「自分たちのいるべき場所に戻ってこられたことは本当にうれしかった。でも、福島の現実を考えたらこれからが本当のスタート。ここまで皆でひとつになってこられたのは真実なので、さらに力を合わせて一歩ずつ進んでいければいいと思います」
そう。大森の言は、まさに小林監督が意図していたもの。映画は、フラガールとともにポリネシアンショーを盛り上げるファイヤーナイフダンサーのリーダー、裕仁ALEXが2人の息子と海岸で遊ぶシーンで締めくくられる。キャラバンでは消防法によって火のついた棒を回すことができず、裏方に徹していた。いまだに本来のパフォーマンスで舞台に立てない彼も、福島の現実に翻弄されているのだ。
小林「舞台だけを見てしまうと、戻ってこられて良かったねフラガール、になりますけれど、それは全然違う。僕たちは、その一歩を記録したにすぎない。ファイヤーナイフダンサーも、あそこで子どもを育ていく、未来に向かって生きていく、そういう宿命を抱えているので、あくまでその一歩だということを表現したかった」
撮影した映像は200時間に及んだが、「ファースト・インプレッションを大切にして、あまり迷わなかった」というスピーディな編集を経て、10月23日、第24回東京国際映画祭で特別に設立された「震災を越えて」部門で初披露。同月29日に公開された。
全国を行脚するフラガールたちの懸命な姿を見て、エールを送りたくなるような内容だろう。タイトルから思い描いていたイメージは、いい意味で見事に裏切られた。もちろん、そういう部分はあるが、やはり当事者であるマルヒアと大森の感想が、作品世界を的確にとらえていた。
マルヒア「原発事故で抱えているものを、大森がよく頑張って話してくれましたし、ハワイアンズの復興はもちろんですけれど、福島の今の姿ですね。それを世の中の人に伝えられるものができたことが良かったと思います」
大森「ありのままの真実が映し出されています。見る方にとって今考えるべきことや、どう生きていかなければならないかなど、さまざまな問いかけにもなる。ストレートに見ている人の心に響くものになったと思います」