幕末太陽傳のレビュー・感想・評価
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ぐっさんを彷彿とする
フランキー堺主演のものは初めて見た。
それまでは中年時代のかっぷくのいい状態でしか知らなかったが、
この映画では若いフランキー。
顔がデカイせいでずんぐりな印象抱きがちだが
体が意外にすらっとしている。
いわゆるイケメンじゃあないけど、
現代の芸人ぐっさんに通じる
愛される、(人相的にも)いい男な顔だ。
さて映画だが何をおいても落語がもとなだけあってか
それとも川島監督だからか
セリフの軽妙なテンポが非常に心地よい。
先にはある意味終末しかない男。
それも明るいやつであるほど観てる側としては
寂しい気持ちがより募る。
それでもからっと達観した、
人間なら必ず行くことだよというスタンス。
たとえば正岡子規なりこの映画に顕れてる川島なり、
洒脱で乾いてながら人生に愛のある感じ。
最近はあんまり見ない気がします。
さらにトンチのきいた人物像。
サザエさんのカツオくらいしかみない。
以前は一休さんやあばれはっちゃくだの
あったのだが。
堅苦しい世情になって受け入れられにくくなったのかなあ。
だとしたら残念だ。
攘夷運動♥? クールなサムライ・ニッポン!
『何々してくんろ』って北関東の方言。北関東の町人若しくは農民が、品川の遊郭に来た理由が分からない。と言うよりも、北関東の方言をパカにしている。脚本家の差別的偏見と見るべきだ。
『単に人家を焼くと言うのではない。安政の屈辱的な条約に火を付けるのだ』
そして高杉晋作は続ける。
『外国の領土(植民地)と化した上海を見てきた。だから、今、幕府のメイモン(?)を打破しなけりゃ、日本は第二の上海になる』すると久坂玄瑞は『そんな理由で、領事館を焼き討ちと言うのは愚挙だ!』と言って仲間割れする。
さて、高杉晋作と久坂玄瑞の架空の会話を取り上げ『挙げ句』いとも簡単に二人は同意して『英国領事館焼き討ち』と言う『亡国的テロ』を成功させる。
そして、問題なのは、
戦後、12年経過して、アメリカの植民地の様に成り下がった国の文化が、堂々とそんな台詞を吐いている事である。
『溝口健二監督』の『赤線地帯』を見て、落語のファンだったので、この映画を見た。
『居残り佐平次』
『付き馬』
『品川心中』
『三枚起請』
等など『日本の醜い文化を笑い飛ばす』そう言った内容だと期待していた。しかし、全く違うどころか、明治維新後の間違った事件まで美化しているのには、実に驚愕の思いである。この演出家は兎も角、助監督、脚本家に『楢山節考』の演出家の名前があった。彼を左翼的リベラリストと称賛する人もいるが。
どうやら、私の見立ては間違っていなかった様だ。しかも、
落語を元にしているのに、笑うところは一つもない。
追記
『英国公使館焼き討ち事件』は1863年で、火付け役には、後の第一代内閣総理大臣の伊藤博文もいる。
それはさておき、前年の1862年には『生麦事件』と言う事件で薩摩藩の『お侍さん』が英国人を斬り殺している。私は日本史には疎い方だが『屈辱的条約』よりも『亡国的テロ』の方が問題なのは『生麦事件』の結果を知れば、誰でも理解できる。そして、ずっと後の挙げ句の果てに、その英国やオランダ相手に、戦争まで引き起こし、最後は孤立して、ズタボロに負ける。国際的に『日本って空気が読めていない』と感じてしまう。残念な事だが。
フランキー堺の居残り佐平次がお見事、南田洋子の遊女や石原裕次郎の高杉晋作も魅力的で、若旦那と駆け落ちする芦川いづみも凛々しい
川島雄三 監督による1957年製作の日本映画。配給:日活、日本初公開:1957年7月14日。
著名ながら川島雄三監督の作品は初めての視聴。前半はテンポのせいか少々退屈であったが、後半から俄然に面白くなって驚かされた。自分はあまり見たことが無いタイプの喜劇映画だった。
幕末の文久2年(1862年、明治維新の6年前)品川の遊郭が舞台。主役の人物像は、古典落語の「居残り佐平次」をベースにしている様だが、フランキー堺が肺病持ちながら賢さと狡さと人情味で成功していく主人公を演じいて、ビックリするくらいお見事。獅子奮迅の活躍をする肺病持ちの主人公は、多くの作品を監督しながら筋萎縮性側索硬化症であった川島雄三自身の反映なのだろうか?
売れっ子遊女同士(南田洋子 vs 左幸子)のライバル争いや、男たちを手玉に取って稼ぎまくるこはる(南田)の調子の良さが何とも心地良い。彼女が小悪魔的なこんな素敵な役を演じてたとは知らなかった。
父親の借金の為女郎にされかかる芦川いづみの若旦那(梅野泰靖)との駆け落ちエピソードも、2人が牢獄に閉じ込められる意外性もあって上手い脚本。宮崎駿がファンで、ジブリのヒロイン像を体現するという芦川いづみの凛々しさも新鮮であった。
石原裕次郎による高杉晋作らによる英国公使館焼き討ち事件を絡めたのも秀逸。傑物演ずる裕次郎と知恵者フランキー堺の船上での駆け引きが、実に面白かった。
あと、坂玄瑞役で小林旭、志道聞多(井上馨)役で二谷英明、更に岡田真澄、西村晃、小沢昭一、金子信雄、菅井きん、山岡久乃も登場する。
監督川島雄三、脚本川島雄三 、田中啓一(山内久の変名)、 今村昌平、撮影高村倉太郎、照明大西美津男、美術中村公彦 、千葉一彦、録音橋本文雄、編集中村正、音楽黛敏郎、助監督
今村昌平、製作主任林本博佳。
出演フランキー堺:居残り佐平次、南田洋子:女郎こはる、左幸子:女郎おそめ、石原裕次郎:高杉晋作、芦川いづみ:女中おひさ、金子信雄:相模屋楼主伝兵衛、織田政雄:番頭善八、岡田眞澄:若衆喜助、植村謙二郎:大工長兵衛、河野秋武:鬼島又兵衛、二谷英明:長州藩士志道聞多、西村晃:気病みの新公、高原駿雄:若衆かね、小林旭:久坂玄瑞、武藤章生:大和弥八郎、小沢昭一:貸本屋金造、梅野泰靖:息子徳三郎、新井麗子:女郎おもよ、菅井きん:やり手おくま、山岡久乃:女房お辰、殿山泰司:仏壇屋倉造、市村俊幸:杢兵衛大盡。
けっこうよかった
フランキー堺が、遊郭のスタッフになるまでが退屈で見るのをやめようかと思うほどであったが、それ以降はスーパーマンぶりを発揮してすごく面白い。「ヒヒヒ」というゲスな笑い方がいい。
ラストは現代の町に飛び出していくものだと思っていたら、そのまま時代劇で終わった。そういうアイディアがあったという事だったらしい。
粋ですね〜佐平次!
遊郭相模屋で繰り広げられる人間模様をテンポ良く描いている。
佐平次演じるフランキー堺が素晴らしくうまい。幕末という情勢が不安定な時代にひょうひょうと生きた男を好演している。
石原裕次郎の高杉晋作、女郎の左幸子南田洋子も新鮮です。
アウトサイダーから見た社会の縮図
冒頭、現代(撮影当時)の品川の街が紹介される。八ツ山の陸橋や、旧品川宿の商店街。今の職場のすぐ近くなので、とても興味深く見ていたが、あっという間に幕末、文久年間の品川宿に観客はタイムスリップしてしまった。
女郎宿の代金を踏み倒して、そこへ居残って働くことになった居残り佐平治。ケチで金に細かい彼は、当初周囲からは警戒されたり、馬鹿にされたりする。しかし、持ち前の度胸と、機転の速さで、いろいろな問題を解決していき、女郎宿の人々からは慕われ、頼りにされることになる。フランキー堺が演じている佐平治の、その軽かやでエネルギッシュな動きは、カメラワークによっても表現されている。宿の1階廊下から階段を抜け、2階の廊下へと駆け上がるノーカットのシーンは、カメラが吹き抜けを上昇して、その後なおも2階の廊下を水平に移動するという複雑な動きをしていることを示している。
佐平治はアウトサイダーである。共同体の外部からやって来て、共同体に波乱を起こし、自らその終息を図る。このような性格の登場人物と物語の構造は、他の川島作品にも見られる。「とんかつ大将」の主人公も、金持ちの実家を出てきた医者で、下町の人々に慕われ、問題を起こし、彼らに自分たちの内部を見つめなおす契機を残して、去っていく。また、「東京マダムと大阪夫人」に出てくる、大阪夫人の弟八郎も、大阪からふらりとやって来て、社宅の奥様方の間に波紋を起こし、その自己顕示欲の強さに気付かせる。そして、最後にはアメリカへと去っていくのだ。この佐平治も、女郎宿の一人息子と、女郎に売られた大工の娘の駆け落ちを手伝うことになり、これが潮時と、品川宿を去っていく。人は、狭い共同体の中で、つまらない自己顕示欲や、目先の利益に振り回される。アウトサイダーの目を借りなければ、そのことに気付くことができる者は少ないことをこの映画は訴えかけている。
これらのキャラクターに共通の資質は、他にも、弱い者やまっすぐな人間には優しくて親切だということである。佐平治は、女郎に売り飛ばされた大工の娘と当てのない礼金の約束を交わすだけで、駆け落ちの手助けをする。また、女郎が居留守を使って会わなかった客に、女郎が死んだと方便を使い、そのあげく嘘の墓場まで案内するのである。駆け落ちの手伝いを潮に、女郎宿を去ることを決めた佐平治は、わざわざ墓場までその客に同行せず、逃げることができたはずである。しかし、女郎の死を本心で悲しんでいるその客を、放っておくことが出来ないのだ。
ラスト、佐平治は、町外れの墓地に空いた壁の穴から逃げていく。墓地に置き去りにされる客からは肺病の心配をされるが、まだまだ生きていくんだという強い言葉を放ちながら、品川の宿場町を去っていく。
石原裕次郎、二谷英明が若い。女郎役の南田洋子の美しさ、左幸子の逞しさが印象的。
「主と朝寝がしてみたい」by石原裕次郎
映画「幕末太陽傳」(川島雄三監督)から。
落語好きには、もう溜まらない作品である。
というよりも、この作品の脚本を書いた人たちが、
根っからの「(古典)落語」大好き人間に違いない。
フランキー堺さん扮する「居残り佐平次」をはじめ、
「品川心中」「三枚起請」「文七元結」「お見立て」・・
落語初心者の私でもわかる「名作」がずらりと挿入されている。
他にも「あれっ、これはあの作品かな?」と思うようなシーン満載、
大満足で観終えた。
気になる一言は「三枚起請」という落語で出てくる「都々逸」、
「三千世界の烏を殺し、主と朝寝がしてみたい」の一部。
(これを説明すると長くなるので、書かないが・・(笑))
この作者は、幕末に活躍した「高杉晋作」と言われている。
その「高杉晋作」を演じていたのが、若かりし「石原裕次郎」さん。
やはり、若い頃からオーラを放っていたのがわかる。
作品の中でも「それは俺が作ったもんだ、目の前でやられちゃ、
さすがに照れる」っていうお風呂のシーンが印象的だ。
だから「『主と朝寝がしてみたい』by石原裕次郎」
もうきっと忘れることがない都々逸となった。
今回ばかりは「落語の名作」を聴いてから、観ることをお薦めしたい。
サヨナラだけが人生ならば、笑うだけの人生も有って良いハズだ
先日、落語会で感動した立川志らく師匠がキネマ旬報のコラムで絶賛している伝説の一本なので、早速、劇場に馳せ参じた次第だが、いやはや面白いねぇ。
昭和32年にあの畳みかけるテンポは凄い。
新撰組の志士演ずるデビュー直後の初々しい石原裕次郎や小林旭はおろか、ダンプガイこと二谷英明、口うるさい店主の金子信雄&山岡久乃コンビetc.次々と店を仕切る強敵どもを涼しい顔で、交わしては、稼ぎに精を出すフランキー堺の図々しさは、威勢が良くてニクメない。
『居残り佐平次』をベースに『品川心中』『三枚起請』『文七元結』『お見立て』『付き馬』etc.数々の廓噺を盛り込んでは、幕末で慌ただしい渡世の浮き沈みを滑稽に浮き彫りにし、描き捨てる。
売れっ子遊女の南田洋子と左幸子が揉みくちゃに取っ組み合うキャットファイトに象徴されるように、人情臭さを廃除したドライな眼は、唯一無二の世界観を生み出し、時代を超え、観る者を今も引き込む。
貸本屋の小沢昭一が左幸子にそそのかされ、海に飛び込もうとする場面なんざぁ、『品川心中』がそのまま飛び出したような面白さで溢れていた。
落語と映画の醍醐味が銀幕一枚に並び立った最初で最後の作品では無かろうか。
主人公の佐平次は結核で余命幾ばくもなく、義理人情なんぞクソ食らえってなぁ薄情な了見の持ち主。
そんな掴み所の無いキャラは、病弱だった川島雄三自身が抱える死生観を物語っている気がして、ドタバタした笑いの中にどこか影がつきまとい、淡い味わいを加えている。
生前の川島が愛した言葉の一つに
「サヨナラだけが人生だ」がある。
30凸凹ノウノウと生きてると、なるほど世知辛い世ん中なんざぁ、所詮そうかもしれない。
でも、そうだと言い切れない自分もいやがる。
川島はラストは当初、駆けていく佐平次が品川を越え、江戸を越え、遂には日活スタジオを飛び出し、とうとう現代の東京の雑踏に紛れて、サゲたかったらしい。
やはり天才の考える演出は万人の思考を遥かに凌駕している。
フランキー佐平次が駆け抜けようとした先に、サヨナラの意味が待っていてくれていたのかもしれない。
では、最後に短歌を一首
『品川の 宵に居座る 咳ひとつ 御脚も啖呵も 斬り捨て後免』
by全竜
俺はまだまだ生きるんでい
あれっ?思わず声をあげてしまった。
おぼろげな記憶の中のラストシーンでは、佐平次(フランキー堺)は墓場から逃げ出し、
海沿いの道を走り、セットを飛び出して昭和32年の品川へ駆け抜けた筈!?
オールナイト5本立ての1本として半分寝ぼけながら見てしまい、
先輩達が夜明けの喫茶店で熱く語っていた幻のラストシーンを
頭に刷り込んでしまっていたらしい。
(オールナイトで見た映画は、見た内には入らないと反省・・)
遊郭に次々捲き起こる難題を居残り佐平次が鮮やかに解決していくのだが、
爽快感と共に、風が吹き抜けるような寂しさを感じてしまった。
決して弱みを見せない佐平次が、一人の時に見せるぞっとする程の絶望的表情に
進行性筋萎縮症で体の自由を奪われていた川島監督の痛みを重ねてしまったのかもしれない。
落語の「居残り佐平次」には、病気の母親へと仲間にお金を託すくだりがあるが、
この映画からは、ほろりとするような人情話の部分がほとんど切り捨てられている。
井伏鱒二が訳した漢詩の一節「サヨナラだけが人生だ」が川島監督の口癖だったそうだ。
同郷の寺山修司の詩には「さよならだけが人生」という言葉が繰り返される。
「幕末太陽傳」の影響を受けているという映画「田園に死す」は、
川島監督へのオマージュでもありメッセージだったのだろう。
菖蒲か牡丹のように艶やかな南田洋子と左幸子、リンドウのように可憐な芦川いづみ、
女達は美しく、したたかだ。
主役級の石原裕次郎・小林旭・二谷英明。
芸達者な小沢昭一・西村晃・金子信雄など超豪華キャストを見るだけでも面白い。
39歳で「幕末太陽傳」を撮り、45歳で亡くなるまで、
「貸間あり」「青べか物語」「しとやかな獣」等々の傑作(残念ながら未見)を
残した川島監督だが、撮影予定作が何本もあったと聞く。
映画のラスト「俺はまだまだ生きるんでい!」と佐平次が叫んだように、
まだまだ生きて作品を残して欲しかった。
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