「サヨナラだけが人生ならば、笑うだけの人生も有って良いハズだ」幕末太陽傳 全竜さんの映画レビュー(感想・評価)
サヨナラだけが人生ならば、笑うだけの人生も有って良いハズだ
先日、落語会で感動した立川志らく師匠がキネマ旬報のコラムで絶賛している伝説の一本なので、早速、劇場に馳せ参じた次第だが、いやはや面白いねぇ。
昭和32年にあの畳みかけるテンポは凄い。
新撰組の志士演ずるデビュー直後の初々しい石原裕次郎や小林旭はおろか、ダンプガイこと二谷英明、口うるさい店主の金子信雄&山岡久乃コンビetc.次々と店を仕切る強敵どもを涼しい顔で、交わしては、稼ぎに精を出すフランキー堺の図々しさは、威勢が良くてニクメない。
『居残り佐平次』をベースに『品川心中』『三枚起請』『文七元結』『お見立て』『付き馬』etc.数々の廓噺を盛り込んでは、幕末で慌ただしい渡世の浮き沈みを滑稽に浮き彫りにし、描き捨てる。
売れっ子遊女の南田洋子と左幸子が揉みくちゃに取っ組み合うキャットファイトに象徴されるように、人情臭さを廃除したドライな眼は、唯一無二の世界観を生み出し、時代を超え、観る者を今も引き込む。
貸本屋の小沢昭一が左幸子にそそのかされ、海に飛び込もうとする場面なんざぁ、『品川心中』がそのまま飛び出したような面白さで溢れていた。
落語と映画の醍醐味が銀幕一枚に並び立った最初で最後の作品では無かろうか。
主人公の佐平次は結核で余命幾ばくもなく、義理人情なんぞクソ食らえってなぁ薄情な了見の持ち主。
そんな掴み所の無いキャラは、病弱だった川島雄三自身が抱える死生観を物語っている気がして、ドタバタした笑いの中にどこか影がつきまとい、淡い味わいを加えている。
生前の川島が愛した言葉の一つに
「サヨナラだけが人生だ」がある。
30凸凹ノウノウと生きてると、なるほど世知辛い世ん中なんざぁ、所詮そうかもしれない。
でも、そうだと言い切れない自分もいやがる。
川島はラストは当初、駆けていく佐平次が品川を越え、江戸を越え、遂には日活スタジオを飛び出し、とうとう現代の東京の雑踏に紛れて、サゲたかったらしい。
やはり天才の考える演出は万人の思考を遥かに凌駕している。
フランキー佐平次が駆け抜けようとした先に、サヨナラの意味が待っていてくれていたのかもしれない。
では、最後に短歌を一首
『品川の 宵に居座る 咳ひとつ 御脚も啖呵も 斬り捨て後免』
by全竜