「俺はまだまだ生きるんでい」幕末太陽傳 ミアさんの映画レビュー(感想・評価)
俺はまだまだ生きるんでい
あれっ?思わず声をあげてしまった。
おぼろげな記憶の中のラストシーンでは、佐平次(フランキー堺)は墓場から逃げ出し、
海沿いの道を走り、セットを飛び出して昭和32年の品川へ駆け抜けた筈!?
オールナイト5本立ての1本として半分寝ぼけながら見てしまい、
先輩達が夜明けの喫茶店で熱く語っていた幻のラストシーンを
頭に刷り込んでしまっていたらしい。
(オールナイトで見た映画は、見た内には入らないと反省・・)
遊郭に次々捲き起こる難題を居残り佐平次が鮮やかに解決していくのだが、
爽快感と共に、風が吹き抜けるような寂しさを感じてしまった。
決して弱みを見せない佐平次が、一人の時に見せるぞっとする程の絶望的表情に
進行性筋萎縮症で体の自由を奪われていた川島監督の痛みを重ねてしまったのかもしれない。
落語の「居残り佐平次」には、病気の母親へと仲間にお金を託すくだりがあるが、
この映画からは、ほろりとするような人情話の部分がほとんど切り捨てられている。
井伏鱒二が訳した漢詩の一節「サヨナラだけが人生だ」が川島監督の口癖だったそうだ。
同郷の寺山修司の詩には「さよならだけが人生」という言葉が繰り返される。
「幕末太陽傳」の影響を受けているという映画「田園に死す」は、
川島監督へのオマージュでもありメッセージだったのだろう。
菖蒲か牡丹のように艶やかな南田洋子と左幸子、リンドウのように可憐な芦川いづみ、
女達は美しく、したたかだ。
主役級の石原裕次郎・小林旭・二谷英明。
芸達者な小沢昭一・西村晃・金子信雄など超豪華キャストを見るだけでも面白い。
39歳で「幕末太陽傳」を撮り、45歳で亡くなるまで、
「貸間あり」「青べか物語」「しとやかな獣」等々の傑作(残念ながら未見)を
残した川島監督だが、撮影予定作が何本もあったと聞く。
映画のラスト「俺はまだまだ生きるんでい!」と佐平次が叫んだように、
まだまだ生きて作品を残して欲しかった。