劇場公開日 2011年11月12日

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「他者と関わらずして、感染は絶ちきれない」コンテイジョン cmaさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0他者と関わらずして、感染は絶ちきれない

2011年11月23日
フィーチャーフォンから投稿
鑑賞方法:映画館

怖い

興奮

知的

突如謎のウィルスが蔓延し、日常生活はもろく崩れ去る。買い占め、車の長い列、情報の錯綜…は、3月の震災を思い出さずにはいられなかった。時期が時期なら、公開も危ぶまれたかもしれない。ある程度冷静に観ることが可能な時期に出会えて幸運だった。
安直ながら、やっぱり比べたくなってしまうのは「感染列島」。また、他のディザスタームービーと比較しても、家族愛や恋愛讃歌に逃げず、冷静に事態を追う視点を貫いている点は出色と感じた。
様々な立ち位置のキャラクターが登場する中、市民代表マット・デイモンが抱える矛盾は特に忘れ難い。彼は、物語を突き動かすことなく、否応なしに感染の渦に巻き込まれ、ただただ逃げ惑う。そんな「その他大勢」の生々しいドラマが、さりげなく随所に盛り込まれている。感染を恐れる彼は、娘の交際相手へ過剰な危機感をむき出しにし、指一本触れさせまいとする。その一方で、食糧の奪われた見ず知らずの女性には、救いの手をさしのべる。それには、ワクチン開発に力を持つ研究所長(ローレンス・フィッシュバーン)の「個人的な」行動以上に、はっとさせられた。危機的状況では、何が善で何が悪かなど容易に判断を下せないし、ゆらがぬ信念なども存在しない。むしろ、一瞬のひらめきや直感が、大きく物事を動かすのではないだろうか。
そして、感染そのものにも、矛盾があることを映画は指摘する。感染を絶つには、感染経路となる他者との関わりを微細に至るまで絶ち切らねばならない。一方で、感染から逃れ、ウィルスを克服するには、他者への多様な関心、たくさんの人の膨大な労力と苦悩が不可欠なのだ。感染経路の調査、治療、ワクチンの開発、市民生活の維持…。どれも独力ではなし得ない。そんな中、野心家のフリーライター(ジュード・ロウ)がブログで独自に情報を発信し、事態が急速に混乱していくさまは空恐ろしい。そして、孤高を気取る彼もまた、大衆にすり寄り、情報を操ることで、結局は「事態に踊らされている」一人である、という無自覚な矛盾をはらんでいる。
映画中の出来事は、日常から決して遠いものではない。私たちは日々自分の顔に触れ、様々なドアノブに触り、たくさんの他者とすれ違う。観終えてから時間が経つほどに、じわじわと効いてくる作品だ。

cma