「無慈悲の裏に隠れる愛」ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q 古元素さんの映画レビュー(感想・評価)
無慈悲の裏に隠れる愛
何て無慈悲。そして無慈悲の裏にある強い強い愛。ATフィールドという名の心の壁。
どれだけ冷酷非道にシンジを扱おうと、彼を殺害できる権限を持っていながらも、施行しないミサト。シンジを「怒りと悲しみの累積」のうえガラス越しに殴ろうとも本人を殴らず、ピンチのときには思わずシンジの名前を叫び、最後には自らを救ってくれなかったシンジを救いに行くアスカ。
その中カヲルのシンジへの想いは、ただならぬものだったように思う。私が最も好きな連弾シーン。最初は恐る恐る鍵盤を叩くシンジだが、カヲルと音を重ね、カヲルに「音を楽しむことだ」「君との音はすごく良い」と言われ、徐々に上達し行くピアノ。過去を顧み荒むシンジに「過去のリフレインは良くない」と制し、道標を与えるカヲル。最後自らを責めるシンジを庇い、また会えると死に行くカヲル。数分後に流れる宇多田ヒカルの桜流しの歌詞に「もう二度と会えないなんて信じられない まだ何も伝えてない」とあることからわかるカヲルの本心。「今度こそ君を幸せにしてみせる」と誓うカヲルはまたしてもシンジを幸せにできなかった。それを悔やむのだろうか。
シンジが「救った」と勘違いするアヤナミレイ。『序』 『破』の綾波レイのコピーのように思えた。最後にシンジのコンポを拾うかのようなシーンから、綾波レイ(碇ユイ)の強いシンジへの愛(母心)が、アヤナミレイにもほんの少し移っているのだろう。
同時に今作品で改めて感じたのは、ATフィールドの本性だ。『新世紀エヴァンゲリオン』にてカヲルはアスカに言う。「ATフィールドは心の壁」だと。この言葉を終始訝しみながら鑑賞していたが、今日それは真だと確信した。シンジのやり場のない怒りや悲しみ、憎しみがユイを動かし、終いにはエヴァの暴走へと繋がる。アスカのシンジに対する強い感情が、弐号機自爆やATフィールドを介さない攻撃に繋がる。人は常に他者に壁を作って生きているが、時にそれを壊すこと、作らないことも大切だというメッセージかもしれない。
色んな登場人物の思惑や強い感情は、シンヱヴァンゲリヲンではどうなるのか。ますます楽しみだ。