パーフェクト・センス : 映画評論・批評
2011年12月27日更新
2012年1月7日より新宿武蔵野館ほかにてロードショー
絶望的結末ながら生きる力と喜びが余韻となる優れた寓話
嗅覚、味覚、聴覚と、順にひとつずつ感覚が失われていく未知の感染症が世界を覆ったとき、人々はどうするのか? 過去に例のない設定での世界の終末を、異変に立ち向かう科学者スーザンと、五感すべてで人々を幸せにするシェフのマイケルのラブストーリーから見つめる展開が秀逸なヒューマンドラマ。
一応SFだが、現代人の慢心を諌めるかのように、この物語で科学は無力だ。スーザンは、絶望的未来をいち早く察知する中で救いを求めるように恋をし、傷つき、真の愛に気づいていく。中盤、彼女が科学の限界を身をもって知っていた過去が明かされ、扮するエバ・グリーンの繊細な感情表現が胸を打つ。
一方のマイケルは嗅覚、味覚が失われても人々に会食の楽しみを提供しようと工夫する。それは自身の生の証しでもあったが、さらに事態が悪化すると愛の力に気づき、必死に愛を求める。
そんなふたりの背景に、どんな苦難に見舞われても前向きに人間らしく生きようとする人々の切ない姿が映り込み、希望を生むのだ。
とはいえ、デビッド・マッケンジー監督は、暴力や略奪に走る人々の醜い姿も映しだす。だが、感覚を失う直前、人々は異常な感情の高ぶりに見舞われ、負のエネルギーを爆発させるという予兆の仕掛けが絶妙で、いつしか人間を信頼してしまう。その描写が強烈で、人々が自分の醜さを知って平穏を望む思いに自然に包まれるのだ。
また、世界の状況については詩的なナレーションで終始示した構成も、悲劇にワンクッションを置いて効果的。それが終盤、触れ合いを求めて捜し合うふたりの情感をナレーションが浮き彫りにし、絶望的結末ながら生きる力と喜びが余韻となる優れた寓話となった。
(山口直樹)