「悪夢と成長。」夢売るふたり ハチコさんの映画レビュー(感想・評価)
悪夢と成長。
タイトルは夢売る~なんだけど、とても夢見られるような
内容じゃないし^^; これかなりの悪夢になりそうな感じ。
でも自営業を営んでるご夫婦なら、こんな苦労はおそらく、
(今のご時世)とうに越えてきましたよ、って感じですかね。
相変らず残酷な描写が巧い監督だな~と思うんだけど、
今回は夫婦を主役に持ってきて、初めて?女性の視点で
物語が描かれている。
よくこういう夫婦って見かける(存在する)と思うんだけど、
どれだけ寄り添っていようが、夫婦って他人なんだよね。
同じ夢を追っているようで、おそらくそれに対する価値観は
違っているし、お互いの想いとかけ離れているのは当然。
他人同士が肩寄せ合って、相手の欠点や弱点を補いながら、
こんなはずじゃなかったのにさ^^;でもまぁ、仕方ないよね。
なんて思いながら(騙し騙し)恋愛今昔を体感する結婚生活。
最大の局面は今回のように「危機」が訪れたことで、それを
どう受け止め対処するかの方向性がお互いにズレてたこと。
相手の「底」が見えてしまったにも拘らず、それでも諦めない
(この人はずっとこうしてきたんだろう)妻が、一世一代の
詐欺芝居(というより復讐)を夫に仕掛けたことが発端。
店が焼失したことで心身消失してしまったかのような夫が、
些細なあやまちで知り合いと一夜を共にしたことが許せない。
いや、許せないですよ。分かりますけどね、その気持ちは。
(でも本当に許せないのは自分自身の愛憎ね)
あまりに夫を愛する(やや偏執的な)妻は、その報いをどう夫に
受けさせようか、夫に見下され利用されている立場の自分を
高見に立たせ、双方を利用する立場に立ってしまったのだ…。
この妻、決して頭が悪いとは思えないんだけど、
計画的なように見えて感情で動いている(女性特有の)弱さが
絶対あとで命取りになるだろうなーと思ったら、案の定だった。
様々な女を騙したあと、まだ足りないと呟く妻に夫が言う一言。
これがまた大図星で衝撃的。
どれだけ騙してお金を巻き上げても、新しい店が持てようとも、
目的を見失ってしまった夫婦にはもう嬉しそうな顔は見えない。
それよりも日々の充実感を(他人を見ながら)求めてしまう。
入り浸った母子家庭に家族愛を感じ始めた夫に、妻は恐怖を覚え
ついには刃物まで握ってしまうのだが…。
見ていて悲しいのは、どうしてそれだけ愛している相手にまで
自分の気持ちに嘘をついてしまうのかというところだ。
妻は思ったはずだ。騙される女たちがなぜあんなに自ら進んで
夫にお金を差し出し、それも満面満足でいられるんだろうかと。
(違うのも一人いたけど^^;)
それは自分が夫にやってきたのと同じこと、でも夫はその女たち
よりも妻と「夢」を選んで帰ってくる。だからまだ大丈夫。騙せる。
こんな疲れる賭けに身を投じるのならいっそ、夫に
思いの丈をぶちまけてしまえばよかったのに。もっと早い段階で。
「アンタ、誰のおかげでここまで…!」って、言えるわけないか。
この妻はどれだけ夫に尽くし通してきたんだろうと思う。
借金に借金を抱え、店を持つために子供も作れず、やっとの
思いで夫婦の夢を叶えたと思ったら、あの火災だ。結婚してから
一日でも安息日があったんだろうかとさえ思える。
あるいは、こうなったら「意地でも」離れられなかったんだろうか。
自分も女だから分かる部分は多々あるが(しかもイヤな方向性で)
全くもって割り切れないのがこの時のこういう気持ちなんである。。
西川監督、ホントいい味出してるわ。
先日ある番組で嬉々として映画を語る監督に共感を覚えたばかり。
よっぽど映画が好きなんだろうな、が見えるお人柄^^;だった。
おそらく今回の松たか子への仕打ち(爆)あのリアルな下ネタ場面も、
監督が面白がってやらせたんだろうな~が、どうしても垣間見える。
で、観客は衝撃受けてるワケだからまずまずなんじゃないかと^^;
「ゆれる」では香川照之に脚上で万全の洗濯物たたみをやらせ、
「ディア・ドクター」ではカナブンを何十匹と取り揃えて撮影に挑む、
いや~松さん、あのシーン何回撮ったの?と聞きたくなる出来映え。
これだけ楽しんで映画製作する監督に対して、
いやです。できません。なんて言うわけないよね~あの二人ならば。
阿部サダヲの濡れ場も(初めて観たけど)けっこう頑張っていたしね。
観る方も演ずる方も、どっぷりと西川美和の世界に浸かっているのだ。
考えさせられる箇所は非常に多い作品だが、テーマはシンプル。
今は最悪、今後は最強のふたり(おフランスに負けず)になるでしょう。
(騙される女たちがこれまた秀逸。紀代とひとみには頭が下がるねぇ)