「時間の無駄遣い」ワールド・ウォー Z もとぽんさんの映画レビュー(感想・評価)
時間の無駄遣い
この作品について一言で言わせてもらうと、『何が言いたいのかわからない(盛り上がりに欠ける)』『ツッコミどころが多すぎる』『他のゾンビものを悪い意味で裏切っている』『伏線の不十分な回収』などであろう。それでは、早速、どんな点がいけないのかを振り返ってみることとする。
一、圧倒的主人公補正〜他人の幸福をも奪い取るラッキーマン〜
本作品で一番目につくのは、嫌気がするほどのご都合主義だ。ここにその一例をあげてみよう。とくにそれが顕著なのは中盤で主人公御一行様がイスラエルから逃げ、ウェールズのWHO研究所に向かう段である。
ある理由からゾンビはイスラエルを囲む対ゾンビ防御壁を乗り越え、イスラエル国内に大量に流れ込んでくるのだが、そこで主人公御一行様はあっさりゾンビ集団および混乱する人々の間を切り抜け、空港に辿り着く。其れぐらいならまだわかるのだが、ここからがひと味違う。走るゾンビに追われていた主人公御一行様は滑走路に侵入し離陸間近の飛行機を阻害、強引に飛行機に乗り込むのだが、何故か先程まで追いかけてきていた筈のゾンビ達は滑走路に侵入せず飛行機の離陸を見守っているのである。それからゾンビ達に滑走路を取り囲まれているというのに飛行機に強引に乗り込むのは主人公様含む二人のみで他の兵士などは地上に取り残されてしまう。彼らはどうする気なのだろうか?
飛行機に乗った後も凄い。国連の権限だか何かで主人公様は機長に行き先を押しつけるのだ。このシーンで国連とのやり取りに使用していた衛星電話は電池切れとなってしまう。機長に行き先たるWHO研究所の近くウェールズの空港へ行くことを強いさせたものの、何処からか飛行機内にゾンビ君が登場。閉ざされた空間でのゾンビパニックかと思いきや、何故か主人公様の乗る飛行機の区域の人々だけ妙に冷静でゾンビの侵攻を防ごうとする。しかしやはりゾンビ侵攻は防げず、しょうがないので主人公は手榴弾を使い、迫り来るゾンビを飛行機ごとぶっ壊す。飛行機に空いた穴からは人間・ゾンビに拘わらず皆が吹き飛ばされていく。そしてそのまま飛行機は山奥の町に墜落する。
機首は大きく折れ曲がり切断され飛行機は大破するが、機首近くにいた筈の主人公御一行様二名のみが何故か生存していた。主人公様の腹部には何らかの大きな破片か何かが刺さっているが、そこは主人公補正。どうということは無かった。
たまたま飛行機の墜落地が目的のWHO研究所のそばだったらしく主人公御一行様は徒歩で研究所へ向かう。道に迷うこともなく。途中通った民家から主人公御一行様の様子を窺う住人の姿は映るが、あとは何故かゾンビも人も誰もおらず、主人公御一行様はスムーズにWHO研究所へ。
到着の安堵からか主人公様は三日間意識を失うが、その後目を覚ます。するとWHO研究所の職員が主人公様の持っていた衛星電話を持ってきて「これは何だ、お前は何者だ」と訊ね、主人公様は「その電話で電話を掛ければ良い。さすれば、我の正体が分かるだろう」と答える。電池切れだった筈の衛星電話は何故か使えるようになっており、また町にはゾンビが居なかったにもかかわらず研究所のある区域内には外からやって来たというゾンビが蔓延っていたりもする
というように主人公補正極まりない、というか他の犠牲は厭わない自分勝手で嫌な主人公なのだ。これでは、感情移入出来ない為に映画の楽しみが半減するし、「この主人公が通るとその場所は滅びる」という関係性までも疑ってしまう。
二、不十分な伏線/伏線回収と設定の矛盾
・子供の喘息設定の無視
・序盤の薬局で手に入れた謎の薬の出番なし
・後半で病気持ちや重傷者がゾンビに狙われないということになるが、他のシーンで病気持ちや重傷者がゾンビに殺られているシーンがあり不適
その他人物がしっかり描けていなかったり、主人公家族がほとんど登場しないうえ無能で主人公の足を引っ張るだけであるなど諸々の理由が抜群に重なりあって、サイアクの映画になってしまったのである。
この映画に無駄な時間を奪われた人たちに、この場を借りてお悔やみ申し上げたい。