「ユーゴスラビアの歴史に思いを馳せ、心打たれるラストシーン!」アンダーグラウンド(1995) KENZO一級建築士事務所さんの映画レビュー(感想・評価)
ユーゴスラビアの歴史に思いを馳せ、心打たれるラストシーン!
1996年の劇場公開の後には
なかなか再鑑賞することは叶わなかったが、
NHKBSで放映され、
ようやく観ることが出来た。
3時間近い長尺で、主人公3人の三角関係の
描写が長過ぎたきらいがあるが、
「フィールド・オブ・ドリームス」を
観たばかりと言うこともあり、
これこそが、本物の寓話・ファンタジー映画
との意味合いで
「フィールド…」に感動された方々にも
感動出来なかった方々にも、
本作をお薦めしたいと思った。
評論家の解説によると、クストリッツァ監督は
フェリーニが好きだとか、
社会風刺性をルビッチ監督の
「生きるべきか死ぬべきか」に
重ね合わせたとあり、
冒頭等のバンドの行進場面にフェリーニを、
地上に出たクロが撮影隊を
本当のドイツ軍と勘違いする設定等には
ルビッチを感じた。
ユーゴスラビアについては、
映画「最後の橋」「ネレトバの戦い」
等からの情報で、
ドイツ軍等へのパルチザン抵抗と
その後のチトー大統領による
社会主義連邦国家への経緯を、
また90年代には、
昨日までは仲の良い付き合いだった
近隣同士の殺し合いという悲劇が
毎日のようにテレビで伝えられた内戦を
目の当たりにして、何かと
戦火に翻弄された国家とのイメージだった。
それだけにマルコを歴史の登場人物として
重ね合わせた実写フィルムは、
ドラマの大事な進行要素であると共に
真実のユーゴスラビア史を
再確認させてくれて秀逸だった。
そんなイメージの中でのラストシーンは、
本土から離れていく小島上での
陽気で明るい酒宴の場面だ。
あたかもユーゴスラビアの数々の困難を
笑い飛ばしてしまえ、
との描写のようにも見える。
しかし、私は涙が止まらなかった。
ユーゴスラビアに外国勢力の侵入が無く、
血で血を洗う内戦も無く、
この楽園のように、
共に飲んで歌って踊り合えることが出来る、
誰にも邪魔されない国だったらとの
製作陣の切なる想いだったのではないかと
想像して胸打たれるばかりだった。