「美味しいお茶が思わず飲みたくなる、ホッと気持が柔らかになる嬉しい映画!」種まく旅人 みのりの茶 Ryuu topiann(リュウとぴあん)さんの映画レビュー(感想・評価)
美味しいお茶が思わず飲みたくなる、ホッと気持が柔らかになる嬉しい映画!
人が生きて生活する中で、本当の豊かさとは一体何だろうか?都会で仕事をしていると結果が総てという事になり(決して都会だけに限った事では無い)、自分の働いているその仕事が、どれ位の利益を上げることが出来ているのか?と言う事で、その人の仕事の価値が評価され、またその人自体の生きている価値が評価されている社会とは本当に、人間を、その人の人生を幸せで、豊かな人生にしているのだろうか?という今の経済原理の在り方の基準に一石を投じる映画であると書くと、堅苦しい、つまらない映画と思ってしまうが、これは、そんなタイプの教育映画では決してない!
特に、第一次産業である、農業と言う食糧生産業に於いては、その食の安全性と言う側面が一般消費者にとっては特に大切である。しかし一方生産者サイドからその事をみると、利益率の高い製品を生産し、しかも効率的に生産を可能にするためには、農薬漬にした、大量の農薬使用の作物の生産をしなければ商売として成立しないと言う、今の農家の現状
その農業の在り方も問題を投げ掛けるのだ。
この作品は、食の安全を追求して、無農薬栽培で生産する事に最大の価値と、誇りと喜びとを持って、生産に従事する、農家の人々の暮らしを描き、また地産地消で、安心安全性の確かな製品を循環型経済のサイクルとして、生産可能に向けて、その生産を試みる農家の人達の理想の姿を描いているのだ。
普通は、こう言う農業の理想的なモデルケースを取り上げ、映画で描いていくのは、ドキュメンタリー作品が多いのだが、あえてこの作品はフィクションのドラマ仕立てと言うのも、面白い描き方だと思う。
そして、この映画は私達が生きていく意味や、生き甲斐や、仕事の様々な価値、仕事を通して得られる人生の価値、人生の豊かさとは、本当はどうあるべきものなのか?等々、様々なテーマを問いかけている。だが、この作品の素晴らしい点は、多くのテーマを盛り込み過ぎてピンボケしてしまい、主題が分散して、何が言いたいのか全く理解出来ないと言う映画も多い中で、その心配には及ばないのだ。よく練られた素晴らしい脚本である。
そして農林省のお役人でありながら、農家の人々に寄り添い、農作業の現場を良く視て回り、実態を熟知している謎の人物を好演する、陣内孝則は、まるで「男はつらいよ」の寅さんを想い越すような親しみの有る、温かで不思議なキャラクターを演じていたのだ。
これからの「新しい価値観、豊かな生き方」を応援する、みると元気になるオーガニック・シネマの誕生!と言う、キャッチコピーであるこの映画、ひょっとして「種まく旅人」は、
どんどんと、日本の様々な地域の農業の在り方をテーマの軸に、そこで繰り広げられる人間模様を、旅人の目の通して描くドラマとしてシリーズ化するのかな?と言う期待感も感じられた、何処となく寅さんを彷彿とさせる人情喜劇のようでもあり、想像していたタイプの映画とは、良い意味で異なり、期待を大きく裏切る、大いに楽しむ事が出来た作品だった。今の日本に、少し明るい楽しさを運んでくれる緑の春風の様な映画である。
何気なく毎日飲んでいるお茶、その日本茶の生産にも深いドラマが有る事を知り、お茶の深く焙煎された香りの豊かさこそ、生産者の豊かな心の香りの表れである事を知って思わず、その美味しいお茶を、大切な人と飲む時間を持ちたくなる、今楽しくって、元気になる映画に出会えた喜びに感謝したい!