「味わい深い作品」ロボジー tochiroさんの映画レビュー(感想・評価)
味わい深い作品
この作品の劇場予告を見たのがちょうど「リアル・スティール」と同時期だったので、その落差に思わず「何で今更“こち亀”ネタなんだよ!」と心の中で叫んでしまった。そのためもあってあまり良い印象は持っていなかったが、映画ファンとしての最低限のモラル「まず自分の目で観てから発言すべし」と思って劇場へ足を運んだ。結果としては自分が思っていたのとは違い、ロボット偽装がテーマの軽いコメディーではなく、なかなか味わい深い内容の作品だった。
中小企業が人工衛星を作った東大阪市の「まいど1号」の例があると言っても、ワンマン社長がいきなりロボット工学もAIも知らない社員に、たった3ヶ月で人型ロボットを開発させると言うあまりに現実離れした設定は、いくら何でも受け入れがたいが、こうしないと老人が中に入るというストーリーが成り立たないので、ここは割り切らないと仕方がないのだろう。
この作品を観て自分が感じた一つは、老人問題がテーマではないかということだ。
ミッキー・カーチス改め五十嵐信次郎さんは、妻に先立たれ娘一家との折り合いも悪く、地域のコミュニティにもなじめない、やや偏屈な独居老人をリアルに演じて実に名演である。この鈴木老人が何もすることがなく、居眠りをしたりテレビを観たり公園で時間をつぶしたりしているのは、定年を数年後に控え、それ以後の居場所や生きがいを考え始めた自分にとって、実に身につまされる場面だった(明日は我が身かも)。
そんな孤独な老人がロボットに入ることで自分が必要とされる居場所を見つけ、共に(褒められるものではないにしても)目的達成に協力する仲間を得、間接的にではあるが娘一家にも自分の存在感を示すことができた。そんな経験の後老人は地域コミュニティにも溶け込む姿勢を見せ、人は人の中でこそ生きることを実感させてくれる。
そしてもう一つ感じたことは、日本のロボット開発に対するその暖かいまなざしと期待感である。ロボット展示会での各社のロボットの描写はもちろんだが、吉高由里子扮する「ロボガール」とも言うべき葉子を筆頭とする、ロボット大好き学生の描写にそれが表れている。自分も若いときはSF・特撮のファンクラブに入って駄文を書いたりしていたので、「好き故に欲得抜きでとことん打ち込む」という心情は理解できるし、多分現実にもこんな人々は存在するだろう。そんな中から実際にロボット開発に携わる人も出てくることも十分あり得る。
ただこのラストにだけは正直違和感がある。ロボット愛溢れる優秀な技術者が作ったのだから、こんな安易な扱いで壊れるようなことをするのは納得できない。
自分の好みとしては①ロボットのお披露目会に鈴木老人(とその娘一家)が招待される②その老人の所へロボットと葉子達4人がやってくる③ロボットがフェースプレートに手をかけ老人が驚く④ロボットがフェースプレートを開けて内部メカを見せ、老人と握手する。⑤その後ろで4人が握り拳に親指を立てたポーズで満面の笑みを浮かべる
みたいな方が好みだったが、所詮これは自分の勝手な思いでしかない。
とにかく自分と同じく「こち亀ネタか?」と思っている人には、是非観て欲しいと思う。一見の価値はある。