「エモーショナルで超高速な殺陣に痺れました。よく長大な原作をまとめてもいて傑作です」るろうに剣心 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
エモーショナルで超高速な殺陣に痺れました。よく長大な原作をまとめてもいて傑作です
『龍馬伝』のチーフ演出を手がけた大友啓史監督がどんな話をするのか関心があったので、『最強のふたり』の試写会をやめて、こちらのプレミア試写会に参加しました。結局大友監督は多くを語りませんでしたが唯一見どころとして、「アクション俳優でなく演技派の俳優を起用し、アクションをやらせたので、エモーションたっぷりのアクションシーンに注目して欲しいと紹介しました。
その言葉通り、素晴らしい殺陣シーンの連続で、今までにないチャンバラシーンを見た思いです。斬り合う登場人物の殺気や渡世離れした厭世感といった感情表現も気合いがこもっていて凄いのですが、殺陣がめちゃくちゃ高速なのです。時代劇で「目にも捉えられぬ早業で」という表現が台詞としてよく語られてきました。本作は、その言葉をまんま映像として完璧に映し出してしまったのです。特に主人公の剣心の殺陣は、超高速&アクロバット。10人20人は一瞬で流れるように倒してしまうのです。その間の動作の速いこと!まるで日本刀がヒュウヒュウと風を切り裂きながら、軽々と相手を突き刺すところは、フェンシングのようです。実は試写会のゲストに、原作漫画の大ファンだという銀メダルを獲得した太田雄貴選手がスペシャルゲストとして登壇。「正直、中途半端な内容なら許せないと思ってたんですが、中途半端どころか本物の剣心を上回るんじゃないかってくらい素晴らしかった。」と語った太田選手は、剣心とだけは闘いたくないとも。メダリストの太田選手ですら恐れを成すほどの高速剣さばきだったのです。
特に冒頭の戊辰戦争のシーンと、ラストの250人の浪人護衛軍団との対決は痛快です。
アクションばかりでなく、大友監督が拘ったエモーショナルな感情表現も魅力たっぷりです。特に素晴らしいのは、剣心の表情の変化のメリハリ。無用な争いを好まない剣心のオフモードの惚けた表情から、戦闘モードのときの闘志溢れる表情の変化。さらに怒りがマックスに達したとき「不殺」の自戒を破って放つ、必殺の抜刀モードの殺気が凄かったのです。
剣心の「殺さず」の誓いについても、時間の制約で少々描きたりないものの、僅かなシーンで、なぜ「殺さず」の誓いを立てたのか、原作にはない独自の解釈で説明しきっていました。たとえ維新に向けての必要悪であっても、人を斬殺すれば、その遺恨は残り、修羅は永遠に連鎖していくことになる。そんな虚しさを剣心は味わっていたのですね。本作のアクションと並ぶもう一つのポイントとなる剣心の隠された過去とそれに引きつられる不殺へのこだわり。他の剣客たちは剣心の不殺を小馬鹿にして、挑発を重ねるます。剣心も最後の最後には怒りが爆発して、不殺の誓いを破ろうとします。馬鹿の一つ覚えに不殺を振り回すのでなく、剣心の人間としての弱い点もきちっと描けていました。そんな剣心を救ったのが、人を殺さず活かす剣を標榜している神谷道場の薫との出会いでした。薫のひと言で、剣心は自分の原点を取り戻し、非道な相手も許してしまうのです。「殺さず」の誓いを立てたはずの剣心ではあったものの、事件に巻き込まれるなかで、許すことができない非道が横行するとき、彼の義の心がその誓いを揺るがしてしまうのですね。流浪の身分なれど決して新しい国作りへの夢を捨て切れていなかった剣心の、こころの中で呻吟する理想と過去への慚愧の念いが良く演出されていたと思います。
物語は戊辰戦争からはじまり、戦場でも最強の人斬りとして居合わせた兵士を震撼させた凄腕の剣客が、戦いに虚しさを感じ剣を捨てるところから始まります。その男は、新時代「明治」の幕開けとともに歴史の表舞台から忽然と姿を消し、その名は「人斬り抜刀斎」と呼ばれて伝説と化していきました。
それから10年。東京では、人斬り抜刀斎を名乗る男が誰かれ構わず斬りつける事件が発生。無謀にも、その男に亡父から神谷道場を継承した神谷薫が立ち向かおうとしたところを通りすがりの若い男が助けます。緋村剣心と名乗るこの男こそ、忽然と消えた抜刀斎人斬り抜刀斎本人でした。
人を斬ることを自らに堅く禁じた抜刀斎は、その刀を決して人を斬ることのできない「逆刃刀」に持ち変え、流浪人・緋村剣心と名乗り、弱い立場の者を救い本当の意味での維新を成し遂げるため、東京の下町に現れたのです。
剣心は、薫が師範代を務める神谷道場にそのま居候することになります。
一方抜刀斎を名乗ったニセモノの正体は、業家の武田観柳に用心棒として雇われた鵜堂刃衛でした。鵜堂は戊辰戦争で剣心が多くの人を斬殺してきた剣を拾得。その剣から怨念と修羅の波動を身に宿して人心を操る特殊な能力を身につけたのでした。観柳と悪事はやがて明るみになり、警察も動き始めます。しかし護衛の鵜堂の強さに次々と警官が犠牲になるなかで、元新撰組で今や警察幹部となった斎藤一は、剣心を呼び出し、かつて幕末に要人暗殺を命じていた山県有朋に引き合わせます。けれども剣心は過去に戻りたくないと山県の申し出を断ってしまいます。
けれども断ったことから、観柳の災いは神谷道場一帯の人達と薫の身の上にまで及ぶことに。薫が人質としてさらわれて、剣心の怒りは爆発。熱血ケンカ屋相楽左之助も助っ人に名乗り出て、薫の救出のため観柳の館に殴り込んでいきます。
そんな剣心を、途中から加勢に入った斎藤一は、「殺さず」の誓いという青臭いことを抜かしているからこんなことになるのだと皮肉ります。
果たして剣心は「殺さず」の誓いを破ることなく、仲間を守りながら生き抜いて行けるのだろうか…。
剣心役の佐藤健は、自らも原作のファンということで、ファンである自分が見て恥ずかしくない演技に努めたと言っているのに相応しい佐藤健流の剣心を情熱たっぷりに作り上げていたと思います。『龍馬伝』で大友監督と出会い岡田以蔵を演じてから、役者として開眼したのではないでしょうか。仮面ライダーでイケメンとして売っていた頃とは、大違いです。
神谷薫役の武井咲は、激しい立ち回りにも初挑戦で立派にこなし、剣心に人を活かす剣を気付かせる重要な役どころをこなしました。小地蔵は、決して武井咲を大根役者だとは思えません。
鵜堂刃衛役の吉川晃司は、異能の悪役としての怖さもたっぷりでしたが、時代に取り残された剣客としてのぶつけようがない疎外感を漂わせる虚ろさもあって、奥の深いキャラを演じていたと思います。
また出演陣最年少の弥彦役を任された田中偉登くんも著名俳優陣を向こうに回して、物怖じせずにハキハキとした演技を見せていたと思います。
そして今回も抜群の存在感を発揮したのが何と言っても香川照之ですね。『龍馬伝』でも晩年の岩崎弥太郎の守銭奴ぶりは際だっていましたが、本作の観柳のそれは、さらに磨きがかかった感じです。喜々としてあくどさを演じている感じがよく出ていて、剣心の不殺のこだわりを思いっきり揺さぶっていたと思います。
最後に、大友作品の陰の主役を担っているのが、音楽担当の佐藤直紀。本作でも冒頭から『龍馬伝』でなじみのあるアップテンポのサントラを流し、ドラマの高揚感をもり立ててくれました。