遊星からの物体X ファーストコンタクト : 映画評論・批評
2012年7月31日更新
2012年8月4日よりTOHOシネマズ日劇ほかにてロードショー
偉大なオリジナルへのリスペクトを貫き通した正攻法の前日談
「遊星からの物体X」は製作後30年経った今もファンに繰り返し観られているSFホラーだ。ロブ・ボッティンの画期的なSFXもさることながら、南極基地隊員12人のキャラクターを見事に描き分け、ハスキー犬の名演技まで引き出したジョン・カーペンター監督の緻密な演出が、限定空間におけるサバイバル劇の最高峰を生み出したのだ。
その偉大な傑作を超えることは不可能だという賢明なる認識のもと“ノルウェー隊に何が起こったのか?”というプリクエル企画に挑んだ作り手たちは、すぐさま大いなる矛盾に直面したことだろう。わざわざリメイクを避けて別の物語の創造に取り組んだのに、結局はエイリアンの覚醒→人体乗っ取り→閉所での死闘というカーペンター版に酷似したプロットに逆戻りしてしまったのだから!
しかし笑みを一切見せない主演女優メアリー・エリザベス・ウィンステッドの熱演に象徴されるように、本作には真剣な気迫のようなものが随所にみなぎっている。エイリアンとの相討ち覚悟の火炎放射攻撃。誰が乗っ取られたかを“歯”で判別するという新たな試み。さらにはCGとSFXを融合させてエイリアンの変態、分裂、再生を映像化し、この世のものとは思えぬ“異常な光景”を惜しみなく連打する。そしてエンドロールとともに最後のピースがぴたりとはまった瞬間、たちまち観る者の脳裏にはカーペンター版の導入部が甦るに違いない。オリジナルへのリスペクトを愚直なまでに貫いた本作は、奇をてらわず堂々と“正しき前日談”として完成したのだ。
(高橋諭治)