ラルジャンのレビュー・感想・評価
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一つの偽札から始まって、ブルーカラーの男性がひたすら堕ちていく物語...
一つの偽札から始まって、ブルーカラーの男性がひたすら堕ちていく物語だった。これが技巧派の小説だったらドミノ倒しのように影響が広がって、それが一つのシーンに収束する形でラストシーンを迎えると思うのだけれど、この映画は違う。並行して動いている人々の物語は、つながりそうでつながらないまま、男は「悪事」をひとつづつこなしていく。実存主義的なレアリズムがバチバチに効いている。映画の盛り上がりを楽しみにすると肩透かしを食らうけれど、胃袋の中に違和感が残り続けるようなそんな映画だった。
難解
こんな難解な作品がカンヌの監督賞だなんて・・・ブレッソンの経歴を見ても80歳を過ぎてからの作品だし、評論家にはウケが良くても普通に映画を楽しむ者にとっては苦痛でしかない。町の雑踏とかの自然の音にはこだわりがあるようだし、冷たい空気感にはアンゲロプス風なところもあるんだけど、カットが一つ一つ短く、俳優の動きも絵画的だし表情も乏しいことから物足りない。
ストーリーが動くのはイヴォンが出所してから。安ホテルに泊まり夫婦を殺し、はした金を奪う。ここで『罪と罰』が原作なのかと気づくのだけど、そんな雰囲気なんて感じられない。さすがに老婆やピアノ教師を惨殺する(とはいっても、斧を振り上げるシーンのみ)ところで青年の狂気を知るのだが・・・
やはり「罪と罰」を読了してないせいか・・・読んでおいたほうがいいですね。
ブレッソン流の愛
カツカツカツ、ゴゴゴゴゴ・・・ズドッ
普通の人が社会からはみ出し犯罪者になるまで
総合60点 ( ストーリー:60点|キャスト:60点|演出:60点|ビジュアル:65点|音楽:0点 )
トルストイの原作を基にしているそうで、いかにもロシア文学らしくやたらと重い。自分の目先の利益だけしか考えないたくさんの性質の悪い人々のあおりを受けて、仕事と家族を失い心が死んでしまった空虚になった男が、社会秩序を失い暴走してしまう。あまり感情も表すこともなく静かに突然の凶行におよぶ姿は、人というよりも近寄ってきた獲物を本能だけで襲う爬虫類のようで、些細なことからすっかり理性と社会性を喪失し変わってしまったのに、人間の形をしたまま社会に放され行動する姿に怖さを感じる。
また、音楽もなく犯罪すら静かに淡々と進んでいく演出が独特で、時に何が起きているのかをはっきりと示すこともなく突然場面を切り替えて結果だけを示唆することにより、視聴者に何が起きているのかを想像させる。直接見せないから、何がどうなったのかがわからないという不安と怖さが残るようになっている。ただしこの演出は静かすぎて退屈を感じることもあるうえに、何かが起きたときにどうなったのかがはっきりとわからないという欠点もあり、いいことばかりではない。
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