「深淵の蒼、紺碧の海、偉大なる青」グラン・ブルー 完全版 kazzさんの映画レビュー(感想・評価)
深淵の蒼、紺碧の海、偉大なる青
完全版4K上映にて。
『グレート・ブルー』の邦題で封切られた当時に観て、めちゃくちゃ面白かった印象がある。まだ20代で感性も尖がっていた頃だ。
後で知ったことだが、短く編集してフランスで初公開された版から、この日本公開版はさらに削った短縮版だった。
封切りでは然程ヒットはしなかったものの、ビデオソフト化された頃からか、徐々に評価と話題が高まっていったと記憶する。当時のソフト化は公開から1年以上後だったと思う。
『グラン・ブルー/グレート・ブルー完全版』としてリバイバル公開されたのは初公開から数年後で、それが完全版の尺だった(…はず)。このときは行列ができるほど盛況で、残念ながら私は観に行けなかった。
それから随分して(10年以上後か)、WOWOWで放送された『グラン・ブルー』を観たが、それが完全版だったかどうか分からない。いずれにしても、完全版の劇場での鑑賞は今回が初めてだった。
率直な感想は………長い💦
40年近く前に観た2時間程度の短縮版はとてつもなく面白かった(という印象だけが残っている)のだが、2時間半を優に超える長尺版はあの時の印象を凌駕するまでではなかった。
それは自分の感性が老化してしまっているからに他ならない。
透きとおるほど澄んだエーゲ海に飛び込んだ少年が、素潜りでウツボに餌をやる。素手だ。これはどうやって撮影したのか。ウツボに噛みつかれたら大怪我をするのではないか。
映画の冒頭に置かれている、フランス人のジャック・マイヨールとイタリア人のエンゾ・モリナーリが少年期を過ごすギリシャ編は、モノクロ画面に石灰質の白い岩肌がより純白に映え、底が透けるて見える海面は薄墨を流したかのようで美しい。
海中に沈んでいるコインを誰が素潜りで拾えるか。ジャック少年には自信があったが、年長のエンゾに譲る。その様子を見ていた老神父の優しさが沁みる。
大人になってからの、ライバルでありながら、兄弟のようでも親友のようでもあるジャックとエンゾの関係性が面白い。
エンゾの母親は自分の手づくりではないスパゲッティを食べることを禁じている。母に隠れてホテルのテラスでスパゲッティを食べるのだが、これが不味そうなのが笑える。
ジャック役のジャン=マルク・バールと、エンゾ役のジャン・レノは、かなりの場面で本当に潜水している。
鮮烈な映像美に加えて、このパフォーマンスも当時の若者が熱狂した要因だったと思う。
プールの底に二人で座って水中でシャンパンを酌み交わす場面は出色だ。
ジョアンナ(ロザンナ・アークエット)がジャックと出会うペルーの雪凍る高地で、ジャックが氷の下に潜水する場面が特に幻想的だ。氷の下には閉じ込められた空気がアメーバのように彷徨っている。
そして、ロザンナ・アークエットがたまらなくキュートなのだ!
何度か夜の海が描かれている。
穏やかに波立つ海面が月明かりに照らされて絵画的に美しく、そこにイルカが共演すると躍動感が加わって幸福感さえ与えてくれる。
彼らが競い合うフリーダイビングは、フィンあり、フィンなし、ロープを手繰る、などいくつかの種目があるが、いずれも潜っている(息を止めている)時間ではなく自力でどこまで潜れるかという深さを競うもの。
潜れば潜るほど水圧が肉体を襲ってくるという生命のせめぎ合いであり、ジャックとエンゾは人間が耐えうる限界点に到達していた。つまり、記録更新を狙うことは死を意味している。
それでも記録に挑まずにいられない天才フリーダイバーたち。そこには麻薬中毒にも似た恍惚感のようなものがあったのか…。
最も話題の的だったジャックが見る夢のシーンは、『トレインスポッティング』の中毒患者が見る幻と双璧をなすセンスだと言えるだろう。
ジョアンナを置いて、ジャックはその恍惚の世界へと旅立っていく。
それは誰にも想像すらできない別世界なのだ。
