「.」市川崑物語 瀬雨伊府 琴さんの映画レビュー(感想・評価)
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自宅(CS放送)にて鑑賞。巨匠の人となりを作品を絡め振り返るドキュメント。テロップで解説する手法は市川崑っぽい構成だが、鉤型のテロップに代表される独特の作風や手法等は、具体的に何がどう特徴的なのか故意に説明が無い。初対面の際、目の前にいるこの人は僕のオリジナルと云い切る岩井俊二監督の潔さに最大限の敬意と畏敬の念を感じる。最晩年の作『犬神家の一族('05)』のオープニング・タイトルをほぼノーカットで流し、撮影現場をインサートするあざとさは正に市川崑らしい演出。掛け声で終えるラストも後味が佳い。60/100点。
・劇場公開時のみ許可されたフィルムがあり、約一分程度割愛している箇所が有ると放映の前にあったが、どこがカットされていたのか、全く気付かなかった。
・画面を六分割・八分割に区切り、アップになった役者の表情のみで心理描写をしたり、科白を被せ極端に速いカットバックを繰り返す手法等、該当箇所の映像のみを紹介するだけでテロップ解説は無かった。他にも写し出される数々の作品の光が回った独特なライティングについての説明はされていない。亦、横溝正史の所謂“金田一耕助シリーズ”の作品群に触れる際は、犯人をサラッと紹介するネタバレをしている。
・晩年、市川は横溝正史の所謂“金田一もの”の新作の企画を温めていた。本作で岩井との共同監督の話題が出て来るが、候補として挙がっていたのは、『本陣殺人事件』だと思われる。残念乍らこの共同監督の企画は立ち消えになってしまった。岩井の作品を観た後、その作風を逆光の人だネと評したと本篇で紹介されており、老いて猶、鋭い眼光を示すエピソ-ドとなっている。
・何度目かの鑑賞になるが、飽きさせない作りで、市川崑監督作を観たくなってしまうドキュメンタリーとしても良作。市川崑を誰かに訊かれたら、本作を薦める事にする。
・鑑賞日:2016年3月12日(土)