「これは、ラブレターであり、ラブストーリーだ!」監督失格 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
これは、ラブレターであり、ラブストーリーだ!
2005年に急逝したAV女優・林由美香の姿を、彼女の元恋人でAV監督の平野勝之が綴ったドキュメンタリー。
平野は以前にも林由美香を題材にしたドキュメンタリー「由美香」を撮っており、本作は集大成とも言える。
映画は、前半は「由美香」でも描かれていた二人の北海道への自転車旅行の模様、後半は衝撃の映像が捉えられている。
久し振りに由美香と仕事をする事になった平野だが、由美香と連絡が取れない。カメラを回したまま由美香のマンションに赴くと…
由美香は死んでいた。
死体こそは映らないが、ヤラセでも作り物でもなく、偶然にも由美香の死に遭遇した瞬間。
泣き喚く由美香ママの姿は、娘を失った母親の真実の悲しみの姿で、胸に迫る。
スナッフフィルムまで後一歩のような衝撃のドキュメンタリーだが、この映画は、平野の由美香へのラブレター、鮮烈なラブストーリーだ。
平野のAV監督デビュー作が由美香の出演作。当時、由美香から「監督失格」と言われ、それをバネにしキャリアを積み、後に恋人関係になる。
北海道旅行での由美香の愛くるしい一面、醜い一面、繊細な一面は、恋人だった平野だから収める事が出来た映像。
二人は別れ、平野は由美香への想いが残り、スランプに陥る。
そんな時、久し振りに由美香と再会するも、その矢先…。
由美香を失った喪失は大きい。由美香ママ共々、考える事が出来ないくらい。
その為、例の映像は封印された。
しかし、平野は、由美香が「映画を撮って」と言っている気がしたと言う。
封印を解き、映画作りを始める。
それは同時に、由美香の死と向き合い、受け入れる事でもある。
それが出来ず、苦しみ泣く平野の姿が捉えられている。
由美香の死から立ち直ろうとする痛々しいまでの姿でもあった。
かつて、ヒッチコックは金髪美女を好き好み、フェリーニは巨女への憧れを描いていたが、平野にとっては由美香こそ女神=ディーバなのだ。