劇場公開日 2011年7月9日

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「静かに生と死を受け入れる」海洋天堂 よしたださんの映画レビュー(感想・評価)

2.0静かに生と死を受け入れる

2015年10月24日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

泣ける

悲しい

幸せ

末期がんにより余命いくばくもない父親が、自閉症の息子に、文字通りに命がけで生きるすべを教えようとする。
アクションスター、ジェット・リーの抑制された演技が光る。
そしてもう一つこの作品で光るのが躍動的な水中シーンと、抑えた光彩が静かな雰囲気をもたらしているクリストファー・ドイルの撮影。特に冒頭の小舟から飛び込む心中未遂のシークエンスは、その色彩と被写体のとらえ方がキム・ギドクのそれに似ていると感じた。
この物語は確かに父親がいかに息子を案じているのかというところに焦点が結ばれている。しかし、この泳げない父親は何度も泳ぎの得意な息子に命を助けられているのだ。
冒頭の心中が未遂に終わったのは、水中にもかかわらず足に括りつけられた錘をほどいた息子のおかげだ。そのせいで二人の命が助かったのだ。そして、照明設備を点検中のプールに浮いた息子が感電していると早とちりした父親は、自分が泳ぐことも出来ないのにプールに飛び込み、結局は溺れてしまったところを息子に助けられる。
このように、親は自分で思っているほど子供の命や運命をコントロールすることは出来ずに、むしろ子供によって命を長らえたり、運命が変わったりするものなのだ。どのような子供が授かろうとも、それは自分ではどうにもならない運命であり、そのほかの人生は存在しない。親も子も、一度この世に親子として生を受けたからにはその生を全うするしかないのだ。
終盤で父親の口から言及される、この子の母親の死んだ理由はまさに、この生の受け入れを拒否することを示唆している。
父親に思いを寄せる女性とグイ・ルンメイ演じるサーカス団の女の子も静かに自らの運命を受け入れて、強く生きている。だからこそ二人ともさわやかで魅力的なのだ。
ここには「本当の自分探し」はない。自分が今生きている現実の中で、どうしたいのか。何が楽しいのか。何が大切なのか。その問いに正直に答えている人々で紡がれた物語である。

佐分 利信