「漆黒の欲望を焼き尽くす憤怒の炎」ドラゴン・タトゥーの女 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
漆黒の欲望を焼き尽くす憤怒の炎
スウェーデン版は未見のまま本作を鑑賞。
2時間38分の長尺にも関わらず、中弛みを一切感じず観られた事に驚いた。
あれだけの量の人物や物語の要素が登場するにも関わらず、
それら全てを綺麗な線ですぅっと繋いだかのような滑らかな語り口。
セリフや場面転換の見事なテンポに関してはもはや“音楽的”と呼べるほどだ。
サスペンスを多く観ている向きには終盤のドンデン返しは読めてしまうかもだが、
そんなことは大して不満とも思わなかった。
流れるような語り口と、魅力的な登場人物に釘付けにされていたから。
まずはリスベット役のルーニー・マーラが素晴らしい!
タフなのにナイーブ。
歪んでいるのに純真。
全身から放たれる孤独のオーラ。
見た目も行動も反社会的だが、実は倫理観は誰よりしっかりしている。
あとダニエル・クレイグ演じるミカエルに「綺麗だ」
と言われた時のあの表情……はい、ノックアウトです。
そのミカエルも忘れちゃいけない。
熱いジャーナリスト魂と人間的な優しさ、弱さ。
「嫌なら皿を洗って消えるよ」
だなんて、脅迫にしては優し過ぎる(笑)。
事件を追う理由も、実業家への復讐心だけでなく、
自分の娘とハリエットの姿を重ねていると思わせる所が素敵だった。
にしても、
暴力描写がここまでどぎついとは正直思わなんだ。
だがリスベットが暴行されるシーンや猫の死骸等は
観客に不快感を与えるべくして造られた事が感じ取れ、
いわゆるエログロとは真逆と考えた。
前者はリスベットが事件解決に協力的だった理由や、ミカエルに惹かれた理由にも繋がる訳だし。
映画が浮き彫りにするのは人間の、特に女性に対する歪み切った欲望。
そして、それによって存在を歪まされた女性達の哀しみ
……いや、憎しみに近いほどの激しい怒り。
リスベットはその“怒り”そのものだ。
彼女はいわゆる強い女ではなかった。
生き残る為に強くならざるを得なかった女だった。
ハリエットは死を装ってなどいなかった。
ハリエットは確かに、その存在をこの世から抹殺されたのだ。
どちらの女性も、本来の自分を殺さなければ生きられなかった。
“誰がハリエットを殺した?”
本作のこのキャッチコピーは、一義的なものではないのかも知れない。
以上!
いやあ、続編がムチャクチャ楽しみな映画です。
スウェーデン版の三部作を観ないで続編を待てるかどうかは自信が無いけど……。
<2012/2/11鑑賞>
私が原作を読んでから納得のいった部分、例えばなぜ暴力や残虐な場面を敢えて原作に忠実に取り入れたか、なぜ〝怒り〟が直に響くように作られているか、など。
公開当時にこの映画だけからこれだけ的確に読み取ってるとは恐れ入りました。
ミレニアムの続編が、2・3を飛ばして、いきなり蜘蛛の巣を払う女(当初シリーズの作家の夭折により、別の原作者)になってしまったのが、少し残念です。
内面の強さと裏腹の華奢で弱そうなルーニー・マーラを見た後だと、スウェーデン版の続編の雰囲気にどうしても違和感が拭えませんでした。ノオミ・パラスさんが見かけからして逞しく見えてしまいます(^.^)