「アントキモ、コントキモ。」アントキノイノチ ハチコさんの映画レビュー(感想・評価)
アントキモ、コントキモ。
さだまさし原作の映画化作品はどれも素晴らしく、
個人的に好きなものが多かったので、今作にも期待していた。
今回も原作は読んでいなかった。
原作との違いを分からない状態で観たせいかやや分かり辛く、
また、なぜ?という点が多かったのは確か。
しかし若手俳優たちの熱のこもった演技は素晴らしく、
特に主人公を演じた岡田将生のヒリヒリとするような繊細な
演技には恐れ入った。榮倉奈々と合わせて心に痛みが走る。
だけど。。。
実は鑑賞後に、とあるブロガーさんの感想を読んでしまった。
原作との違いをこれまた実に繊細な言葉で紡いでいる感想に、
読んでいて思わず涙がポロポロとこぼれてしまった。
あ~そうか。作者が描きたかったのは、そのアントキノイノチだ。
奪わずに済んだアントキノイノチが、イマノイノチを育んでいる。
さすがやるなーさだまさし。やっぱりいい話を書いているようだ。
ラストの「死」が賛否を呼んでいるが、確かにあの描き方は唐突。
ここまで不幸を背負いこんできた二人にあんまりな結末である。
「遺品整理業」に携わる主人公にある遺品を見せたかった、という
その場面を描きたいがために付け足したような印象が残る。
是非とも二人には幸せな人生を歩んで貰いたいと思うのは当然。
そこをひっくり返して想い出に浸るには早すぎるラストである。
そしてもう一つ不満が残るのが松井の人物描写。
原作は(まるで)極悪人と描かれているようだが^^;確かにそれなら
分かり易い。映像で観る限り彼が中途半端な「悪」で(確かにいるが)
永島の心の境地が伝わってこないのだ。殺したいほど憎い、と思う
「悪」なら徹底的に描かなければ主人公の行動のナゼが伝わらない。
なのでそれほど憎んだ「悪」の現在、そこを描いた原作には拍手だ。
命の同等や尊さは、個人的な恨みに関係なく紡がれていくのが常。
どんなに残酷でも未来ある命には須らく賛辞を贈るべきなのである。
松井を演じた松阪くんも上手かった。…だけに少し残念。
クーパーズの佐相さん(原田泰造)は実在する人だった。
撮影に入る前に遺品整理の仕事を体験する出演者達をTVで観た。
こういった仕事が増えるのは確かに孤独社会のなせる技かも。
「おくりびと」で描かれた納棺師もそうだったが、古い話を聞くと
ああいった仕事は昔は家族でやったこと。遺品整理もそうだろう。
身内が亡くなり辛いのは当然。遺体に触れるのも遺品を整理するのも
確かに辛いのは分かる。だけどそれをできる家族がいるのにしない、
やって貰えない死者の方がもっと辛くないか。いい想い出も悪い
想い出もその人の人生がそこにある。どんなに憎んでも家族という
絆は消えない。壇れいが泣きながら読む手紙がそれを象徴している。
消えてしまったアントキノイノチも、
輝き続けるイマノイノチも、大切に掬いあげる作品であって欲しい。
(山木くんとゆきは「東京公園」で共演。染谷将太はこういう役多いな^^;)