「若手俳優の頑張りが爽やかで元気になる心優しい、秀作!」アントキノイノチ Ryuu topiann(リュウとぴあん)さんの映画レビュー(感想・評価)
若手俳優の頑張りが爽やかで元気になる心優しい、秀作!
さだまさしと言えば、先ず頭に思い浮かぶのはあの『精霊流し』の歌声とヴァイオリン!
うん~古いな自分。彼の才能は歌に始まり映画では音楽を担当もするし、歌も唄えて演技もこなし、果ては本も書いてしまうと言う才能のパレード。色々な方向から映画を知り尽くしている彼が描ガき出した次なる作品とはどんなものかと期待で胸が膨らむ。
文句無く、日本社会の現在の暗部を削ぎ出して、人の生命の重さを真正面から訴える素晴らしいテーマを持つこの作品は、否でも観る者に 生命、いじめ、孤独死、家族、無関心、などなど多数の事柄についての問題の重要性を突き付ける。
個人的に物凄くこう言うテーマの作品は大好きな部類である。
ファーストシーンからインパクトのあるハサミが突き立てられたアップからいきなり屋根の上の岡田間将生の裸、さすが瀬々敬久監督だと思った。好調な滑り出しで始まり2時間を超える長尺で有りながらも、ぐんぐんと観る者の目を引っ張っていく。
しかしその魅力と言えばもう岡田将生の芝居に寄るところが非常に大きいと思うし、彼がこう言う芝居もするのかと、正直驚いた!高評価ではあるが私の大嫌い『告白』や『悪人』『僕の初恋~』などなど常に違う顔を覗かせてくれる若きチャレンジャー俳優であるが、今回の彼は繊細な青年の気持ちを本当に見事に演じていて良かったと思うのだ。お相手の榮倉奈々も負けずに熱演していた。そして染谷将太の存在も忘れ難い。『パンドラの匣』は太宰治のあの独特な世界観を見事に映し出してくれた作品で個人的にとてもお気に入りの作品でこの俳優も今後を期待しているのであった!
この『アントキノイノチ』は若手俳優陣の命の力と努力のパワーの成果が大きく画面に溢れ出した素晴らしい作品でこの作品は大好きな映画の1本となった!
一人でも多くの人に観て貰いたい作品として薦めたい!
私は日常、介護の仕事をしているのだが、かつて同僚に自殺未遂の体験を経て介護の道へと進んで来た人を実際に知る私には、生命や人の尊厳について考え抜いた人間が最終的に目指す職業として、介護と言う世界に行き着くのも実感を持ってリアルな事だと思う。
様々な辛い経験を経た若者達が就いた職業が遺品整理業で、そこで嫌と言う程多くの人の死後、遺した物を垣間見る事で人が生きている意味や、生命の重さについてとことん考え抜いて行く過程を経て、最後には自分の未来を信じる力を取り戻して生きる力を得てゆく姿は、本当に肩の荷がスぅっと降りたように安心感を憶え、爽やかな希望を観客の私達に提供してくれると思う。
「人は一人で死んでゆく」と言うセリフがあるが、同時に「人は多く人間の手を借りながら、一人産道を通り抜けてこの世に誕生する」と私は思うし、人はその生涯では大勢の人と関わり、その中で、生きる事の不安感や、困難な事を誰もが体験する。そんな彼の心情を初めの屋根の上の永島君の裸が物語る。だけれどそれ故に生きていくことは、生かされている事に気づいてゆく旅ではないのだろうか?、人々の繋がりの中で活かされている事を思いっきり体験する事こそが、生きることなのだとこの映画を観ると更に思う。
しかし欲を言うならこの映画の最後の15分は不要だと思う。原作を読んでいない私にはこ作品のラスト15分程が文学的にどれ程重要であり、必要不可欠なのかは判断が出来ないが、この映画の評価を4か4.5にしようかなと迷って観ていたが、あの余計なシーンがあったので残念だが評価は2にさせて貰う事にした。過ぎたるは及ばざるがごとし、余韻を残して終わらせて欲しかった。