劇場公開日 2011年6月11日

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「キューバ危機や人種問題を重厚に描きつつも、エンターテイメントとして面白い!シリーズ最高作だ。」X-MEN:ファースト・ジェネレーション 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0キューバ危機や人種問題を重厚に描きつつも、エンターテイメントとして面白い!シリーズ最高作だ。

2011年6月20日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 シリーズの始まりを描く作品は、近年のシリーズ作品のトレンド。マンネリになりがちななかで『X-MEN』の場合は、なかなかの出来でした。
 その点本作に比べて第一作目は、監督したブライアン監督は、自身がゲイだったこともあり、作品の背景にある人種差別問題に思い入れが強すぎて、演出が空回りしているのではないかと思います。第二作目では、前作のアクション面が弱いという批判を受けて、アクションが強化されたものの、逆に超能力バトルシーンが目立ち過ぎて、ミュータントの存在の是非と言うテーマがややワンパターンになってしまいました。ブライアン監督と『X-MEM』シリーズは相性がやや合わなかったのかも知れません。

 マシュー・ヴォーンに監督変更になった本作は、『キック・アス』で見せてくれた展開の素早いアクションに加えて、時代背景にキューバ危機を取り込み、とかく浮世離れしがちなストーリーにリアルティも付け加えてくれました。
 エンターテイメントとしても隙間なく楽しませてくれるうえ、9・11以降の状況にもリアルに迫る快作といえるでしょう。

 本作では、『X-MEN』誕生の発端が描かれています。なかでも、これまで明かされなかったプロフェッサーXとマグニトーの若き日を描き、親友だったはずの二人がなぜ決別したのか、なぜプロフェッサーXが車いすなのか、数々の疑問を明かにされるので、シリーズファンの方は必見です。

 第一作でも、エリック(マグニトーの本名)の少年時代にナチの収容所で母親と生き別れとなり、そこで超能力が発言するシーンが登場します。しかし、ユダヤ人虐殺に繋がる伏線は、その後全く登場しませんでした。これでは、何のための冒頭シーンだったのかと思います。それに比べて本作では、成人後のエリックが執拗にナチスの高官狩りを行っていったことを描き、彼のなかにある人種差別への怒りをより強く明確に描き出しました。
 エリックの怒りが明確になることで、ミュータントへの人類側の仕打ちを巡って、チャールズ(プロフェッサーXの本名)とエリックが決別せざるを得なくなるという結末に道筋をきちんとつけることが出来ました。その点では、第一作目は、この伏線が不完全で、親友でもあり敵同士でもあるという二人の微妙な関係がよく分からないままに終わっていました。

 ところで、9・11以降に浮上したのは、「異なる外観や力を備えた、異物を受け入れるか否か」の人種・民族問題でした。この物語の根底には、公民権の問題が潜んでいます。
 ミュータントは迫害を受ける人種的・宗教的マイノリティの暗喩といえます。プロフェッサーXはアフリカ系アメリカ人の公民権運動の指導者、マーティン・ルーサー・キング・ジュニアであり、マグニートーはマルコムXに喩えられるでしょう。 またマグニートーはホロコーストの生き残りであり、反ナチス・ドイツのメタファーともいえます。マグニートーの腕に彫り込まれたナチス強制収容所番号の刺青が象徴的ですね。

 しかし迫害を受けたエリックの憎悪は、すぐには対人間に向けられませんでした。その対象は、もっぱら迫害したナチスに向かわせたこと。そして、果てない復讐の苦しみを癒してくれたチャールズと、深い友情に結ばれたこと。そこで、共にケヴィンたちのミュータントによる世界支配を目論むヘルファイア・クラブと戦う設定がいいと思います。
 エリックは、ケヴィンと違って権力欲からの世界支配を目指したの覇権主義者ではなかったのです。成り行きで追い詰められた結果として、そうせざるを得なかったのです。エリックの追いやられてしまう決断が、いまの人種問題と密接に繋がっているのではないでしょうか。

 また本作の注目すべき点の一つとして、イギリスの新星ジェームズ・マカヴォイが、プロフェッサーXの知られざる一面を披露したことにあります。一作目は、同じイギリスの国民的名優パトリック・スチュワートが、老齢のプロフェッサーXを演じています。パトリックのプロフェッサーXは、大変な存在感が漂い、一部の隙もない人格者ぶりを見せつけています。そのため、パトリックをリスペクトしているジェームズは、パトリックの当り役を壊してはいけないと、ずいぶん役作りに悩んだそうです。
 しかし、自分の演じられる範囲での役作りに割りきった結果、かなりフランクで人間味ある、若き日のプロフェッサーX像を打ち出したのです。それは、結構女好きで、セクハラも有り(^^ゞ時に、感情的にカッとなったりするという、往年のプロフェッサーXとしては、まさに「若気の至り」という姿でした。
 彼も歳を経て成長していったんだと言い張るジェームズの解釈には、それもアリかなと思える演技でした。最初から聖人君子だったというよりも、凡人となんら変りない遺伝研究者から、人類の存亡に関わる危機に遭遇することで、次第に自らのミッションに目醒めていくプロフェッサーXの方が好感が持てますね。

 他には、ジェニファーの揺れ動く乙女心も、よく描き込まれていました。彼女は変身能力をもつブルーの肌のミュータント。幼いころにチャールズと兄妹同然に育ち、チャールズにずっと思いを寄せていましたが、チャールズの恋愛対象として見れないという気持ちに苦しむ気持ちが、うまく表現されています。
 その後ミュータントで科学者でもあるハンクと惹かれ合います。しかし、ミュータントの外観を“正常”に戻すべきと考えるハンクから、ありのままの姿を肯定するエリックへと、その心は移っていくのです。彼女の心の動きは、意外と本作のテーマを代弁している重要な伏線となっていました。

 あと、チャールズがX-MENプロダクトを立ち上げたとき、まず自身のテレパシー能力を機械的に増幅させて、世界中のミュータントを探索し、訪ね歩くシーンがあります。その中で、ワンシーンだけ、ウルヴァリンとニアミスするシーンが登場していました。

流山の小地蔵