「儚いタンポポが、バラの花束の中で映える方法」天地明察 ダックス奮闘{ふんとう}さんの映画レビュー(感想・評価)
儚いタンポポが、バラの花束の中で映える方法
「おくりびと」で、全世界にその名を知らしめた滝田洋二郎監督が、「東京タワー」の岡田准一を主演に迎えて描く、歴史時代劇。
朴訥に、ただ朴訥に映画作りに取り組み、円熟期を迎えている作り手の才気、意欲、技能に満ち溢れた作品と言えるだろう。「日本が提唱する、日本の暦を作る」一言でいえば、それはそれは地味なテーマである。
巨大なスクリーンで語られる物語として、果たして2時間30分以上の長尺を持たせる事ができるのか。本作の鑑賞に抵抗を覚える方々の多くは、その鑑賞前から力強く目の前に立ち塞がる壁がネックとなっているのだろう。
だが、開始5分でその不安はがらり、がらりと裏切られる事になるだろう。ただただ星が好きな一人の男、主人公となる安井算哲の満面の笑顔から始まる世界。観客は、すぐさま一つの感想にたどり着く。
「可愛い・・・」
そう、この男、イケメンという絶対的な利点を披露する前に、周りを見ずに「ひょこひょこ」と小さい体を振り乱して、路地を走り回る姿。「おおっ!これは!」と、少年漫画のごとく興味の赴くままに笑顔を振りまく愛嬌。ひたすらに、女子の心を物語へと引っ張り込むキュートな魅力がはじけ出す。
よくぞ、ダンディズムと繊細さを内在した生来のスター俳優となった岡田准一を起用した。作り手の目指す「スムーズな導入」と「違和感の払拭」の完成、さすがの職人技が光る。
ぐいっと物語に引き込まれれば、あとは豪華絢爛な日本映画界のスターをそこかしこにぶち込み、「贅沢に使いやがって!」と憤慨している内に、もう観客は飽きる気力も失せていく。とにかく目の前に出来事に「飽きる」事に関しては天才的才気を発揮する現代人の深層心理を理解し尽くした演出操作とマーケティング。さすがの職業監督魂が光る。
だが、流石の職人も「3年間の観測作業」に観客を繋ぎとめるのは容易ではない・・ここまでか。と、思っていたが、そこは映画界という不可能と利己心、金にまみれた世界を生き抜いてきた作り手。単純な観測作業を、スクリーンに叩き付ける技法を見せる。
それが・・パネル!パネルである。
観測作業に挑む主人公たちチームが戦う、往年の暦を書いたパネル。その板を「パン!ぱーん」とひっくり返して、回して、その動作が単調な人間の動きにリズムを与え、長期間の観測作業が躍動する。なるほど、そんな小ネタがありましたか・・と感心しているうちに、「地味」な作業を強引にすっ飛ばし、感動のラストへと岡田、宮崎という美男美女の画を効果的に使って疾走する。
娯楽とは、映画とはこういう無理やり感を前面に押し出す事も一つの手。ううーん、勉強になる。
本作のほか、映画化が決定している「舟を編む」など、映画というステージで勝負するには、強烈にミニマムなテーマが評価される「本屋大賞映画群」。そんなスタートからのハンディを、どこまでスクリーンに昇華できるか。その一つの答えを、ベテラン職人の技をもって見せてくれる一本である。