「前の人と同様に主人公に気持ちが乗っていきませんでした。ストーリーは、なかなか面白いのですけどね。」生き残るための3つの取引 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
前の人と同様に主人公に気持ちが乗っていきませんでした。ストーリーは、なかなか面白いのですけどね。
警察組織がメンツのために犯人をねつ造するという設定自体は、テレビドラマ『相棒』でしばし登場する設定。だが本作の主役の刑事は、その設定に立ち向かうどころか、自ら連続殺人事件の犯人をでっち上げる当事者になってしまうところが、刑事もののドラマでこれまでにないストーリーだと思います。
ヤクザを使ってニセの容疑者を仕立て、犯人逮捕に踏み切ったまではよかったものの、その不正に気がついた検事とヤクザとチョルギの三者の思惑と欲望が絡み合い、一筋ならでは行かないストーリーに引き込まれていきました。
北野武の『アウトレイジ』と同様に本作は、出てくるものがみんなワルなのです。そもそも主人公からして、犯人ねつ造の動機が、単なる出世欲でしかなく、おまけにねつ造を仕組む裏社会のやくざ者との関係がズブズブで、全く正義のかけらも感じさせない人物だったのです。
それを暴こうとする検事もまた、建築会社の会長との癒着を主人公の刑事に追及されて、自己保身のために、主人公の弱点を暴こうとしていただけなのでした。さらに後半の展開では、主人公の罪がバレそうになったとき、自分が信頼してきた部下ですら、犠牲にしてしまう悪辣さでした。
社会派クライム・サスペンスでは、どこかに正義が必要で、観客はそこに救いを求めようとします。けれども何処にも救いとなる正義がない本作は、誰にも感情移入できないフラストレーションが、溜まっていったのです。せめて『アウトレイジ』同様に、主人公よがもっとワルな存在に翻弄される哀愁を描いていたなら、同情の余地を感じていたかも知れません。しかし、主人公の情けない最後まで見せられて、最後の最後まで同情する気になれませんでした。そんな主人公の都合で振り回されてしまうヤクザのほうが、かえって可哀想に思えてしまうくらいです
対する検事のほうも、ざんざん嫌みな官僚らしさを発揮したあげく、最後はぬくぬくと自分の悪事を切り抜けてしまうのです。これじゃあ、見ている方はたまりません。何処にこの苛立ちをぶつければいいのか、後味の悪さばかりが残りました。
それでも、本作のオチは、全く予測不可能な真犯人のネタバレなんです。ええっ!驚かれること必至です。ほんのちょっと演出を変えれば、この結末がくぐっと感動的なものに変わったことでしょう。主人公が背負った理不尽な犯人ねつ造の空しさ。止むを得ず手を汚し、苦闘を強いられるその姿の切なさが染みいるように、感じ取れる終わり方になっていたはずで、とても残念に思えました。
その伏線として、でっち上げられた犯人が、真犯人として落とされていく過程は、なかなか説得力がありました。
ファン・ジョンミンは初めての汚れ役を熱演しているものの、イメージとしては、汚れ役よりもまっすぐ正義を貫く熱血刑事のほうが似合っていると思います。チョルギ役というのは、野心を感じさせる、一癖ありそうな俳優にやらせた方が、もっと本作のリアルティが出てきたのではないでしょうか。