生き残るための3つの取引のレビュー・感想・評価
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【韓国社会の学歴偏重、出世第一主義を強烈に皮肉ったノワール作品。若き、マ・ドンソクも良い味を出しています。】
ー 韓国映画は、政治モノにしても、今作の様なノワール映画にしても、学歴、出世に拘る作品が多いと思う。
実際に、韓国ではソウル大学を筆頭に高麗大学などが難関で、社会に出ても学歴が日本以上に問われる国である。-
■韓国を震撼させる女児連続殺人事件の容疑者を、誤って射殺してしまった警察。
面目の立たない上層部は、警察を大学を出ていないために、出世出来なかった検挙率No1の刑事チョルギ(ファン・ジョンミン)に対し、昇進を条件に犯人のでっちあげを命じる。
前科者のイ・ドンソクを容疑者に仕立て上げるチョルギ(ファン・ジョンミン)だったが、それを検事ヤンに気づかれてしまう。
◆感想<Caution 内容に触れています。>
・結論から言うと何とも切ない物語である。実力はあるのに、昇進できないチョルギが、且つての腐れ縁の不動産社長であり、ヤクザでもあるチャン・ソック(ユ・ヘジン)に頼んだ事。
ー それは、知的障碍者であり、且つて少女への暴行を繰り返していたイ・ドンソクを替え玉殺人犯にする事であった。-
・そこに、チャン・ソックやキム会長と絡んでいたチョ検事が入って来るので、しっかり見ていないと、ややこしい。
・正義感あるマ・デホ(マ・ドンソク)がチョルギを心配して、尾行してきて殺されるシーンは切ない。
ー そして、そんな彼の遺体に偽装工作をするチョルギの姿は最早、自身の出世を考える男としてしか見えない。
そんな彼に、同僚たちが行った事・・。。-
<ハッキリ言って、鑑賞後の気分は良くない作品である。だが、今作は韓国社会の縮図ではないかと思った作品である。
ファン・ジョンミンも、ユ・ヘジンもマ・ドンソクも今や、韓国映画を代表するスターである。
そんな彼らの若き姿を見れた事は嬉しかった作品でもある。>
歯車が一度…
狂うと、もはや転落するのみ。人間は誰しもが弱い生き物。ノンキャリの班長も後輩に出世を抜かれ、悔しかったのは非常によく分かる。そんな無骨ながら迎合せず、とことん悪を追い詰める班長を部下たちも慕っていたはず。けれど、警察が悪に手を染めてしまったら一巻の終わり。韓国映画さながらのスピード感ある展開に引き込まれた。しかも、でっち上げた犯人が真犯人だったなんてという驚愕の事実。不正して部下まで殺してしまって、一体なんだったんだ。彼にとっても事実が明るみになり、逮捕されるよりも、ああいう死に方で良かったのだと思う。悪徳検事がまだ挽回のチャンスがあるというところにも、そして国旗が映りながらのラストも国家の不正は続くというメッセージが込められてる感じがして良かった。全体的に音楽だけがちょっと軽かった。マ・ドンソクが若いなぁ。
まともな人間がほとんどいない
証拠不十分の容疑者を死なせてしまうという大失態。事実をもみ消しし、スクラップ工場のプレス機で死体を始末。そうなると真犯人が必要になる・・・という酷い警察内部。
真犯人捏造に選ばれたのはイ・ドンソクという男。障害者の妻と幼い娘がいるが、過去に少女レイプの罪で12年の刑を言い渡されている。チェ・チョルギ(ジョンミン)は部屋中に散りばめられた過去の犯罪者たちを蹴散らして、もっともらしい犯人を選んだのだ。最初の取り調べでは妻の証言でアリバイが証明されたとのこと・・・しかし、妻本人が登場すると、証拠能力があるとは思えない・・・てな感じで。チャン・ソック(ヘジン)という建設業者をやってるヤクザと癒着していたチョルギは彼にドンソクを犯人に仕立てさせ、送検まで持ち込む。障害者の家族に1億ウォンという金を用意させ、本人には精神鑑定で無罪に持ち込むと約束したためだ。
チュ・ヤン検事(スンボム)はソックとライバル関係にある建設業者と癒着していて、そのためチョルギをマークしていた。そこへでっち上げの疑惑が浮かび、さらにチョルギを捜査する。こうなったら検事の職務は二の次だ(笑)。チョルギにとってはヤバい状況。彼はゴルフ場で癒着現場の写真を撮らせ対抗するのだ。さらにソックに相談してドンソクを獄中で自殺に見せかける殺し屋を用意させる。その殺し屋は検事とつるんでいた建設業者のキム会長をも殺した。ドンソクが自殺したおかげで事件は解決?真犯人はどうなるんだ・・・
収賄や口利きなど、ヤクザとの関係を断ち切りたいチョルギ。脅迫されたが、彼を工事現場のエレベータを墜落させたのはソックの部下。今度はその部下がチョルギを脅し、チョルギによって銃殺。不運なことにチョルギの部下デホが彼を心配して凶行を止めに入ったが、誤射によりデホは死亡。そのまま上手く報告すればいいものを、チョルギはまたもやそこで現場を偽装工作。デホとヤクザの部下が相討ちになったように見せかけたのだ。
おかげでチョルギは昇進するが、科学研究所から真犯人のDNAが特定できたと連絡が入る。それはなんとイ・ドンソク。でっち上げたと思っていたら、真犯人だったというわけだ。そして、さらにソックの運転手が偽装現場を撮影していたことをチョルギの部下たちが突き止める。自分一人だけ昇進した上、デホの葬儀にも参列しなかったチョルギ。部下たちは運転手を使ってチョルギを殺させるのだ・・・・あぁ、なんとおぞましい。
警察も検察も後ろめたいことだらけ。登場人物の中ではまともな人間がほとんどいない。後味も最低なのがいい!おまけにドンソクの娘というのが障害者の妻の連れ子であり、そのために結婚したんだという事実・・・おぞましい。
安定のファンジョンミン
もはや、この人が出たら見ずにはいられない俳優ファンジョンミン。(あと、ハジョンウも!)これも秀作です。個人的には新しき世界より面白いと思います。
最後の落ちが良かった。(あの検事のように、上流社会に居るものは、堕ちないのです)
どこまでも残念。
悪い事は、隠せない。
隠そうとする程ボロがでる。
しかし、毎回書いてるけど、韓国映画は、ストーリーが面白くて、それを演じる俳優が素晴らしい。悲しみ、怒り、がダイレクトに伝わる。演技力がはんばない。
自己保身のためにぶつかり合う二人の男と、それに、振り回される人々…
そして、それが全部無駄になった瞬間、ファン・ジョンミンと一緒に身体のチカラが一気に抜けちゃう感覚に襲われます。
テンポがとってもいいので、残念な落ちっぷりも見ていてイヤにならない。
ファン・ジョンミンやっぱうまいね。
自覚のない蟻地獄の挽歌
常に正義をかざすべき警察が偽の証拠を仕立てる前代未聞の事態を嗅ぎ付け、検事、マスコミ、ヤクザetc.出世欲に群がる連中がお互いの弱味を握り、更なる蟻地獄を掘り起こす弱肉強食のフルコースは、焼肉のメッカ・韓国ならではのボリュームたっぷりの血肉の盛り合わせでお腹一杯の見応えだった。
「ホシがいないなら何やってもいい。とにかくアゲちまえ」
ムチャ振り極まりない命令の下、敵だけでなく強い絆を結んでいたハズの仲間内まで飛び火した裏切りの応酬に、心身ボロボロになりながらも捏造工作に奔走する刑事グループ班長の苦悩が哀愁を誘う。
浜田雅功&石倉三郎を足して、コチュジャンで割ったようなインパクトを放つヤクザの親分との丁々発止なやり取りは今作の醍醐味を濃厚にあつらえている。
災いの元凶やのに、必死に任務を遂行しようともがく彼の醜さは、我々同様、毎日毎日、板挟みを食らう中間管理社会の犠牲者とも云え、軽蔑よりも共感を覚えた。
ただ単に今の職場にウンザリしているだけなのかもしれないって切り捨てちまったら、それまでだが…。
汚職が蔓延る権力腐敗や学歴社会の歪み、内部告発、精神薄弱者の犯罪、検事買収etc.痛烈な社会派の複雑な切り口で刻みながらも、闇の闘争に明け暮れる男共の生き残りを賭けた処世術の生々しさに一貫しており、二転三転するテンポは最後までスピードを緩めない。
ただ、渦の構造を簡素化し、バイオレンス娯楽に徹した割には、約2時間は長過ぎるかな。
エグ過ぎて2、3口で箸を止めた『オールド・ボーイ』よりはマイルドで食べやすいけど、お代わりは遠慮したい味付けと云える。
第一、あんなに殺しまくってたらバレるのは、時間の問題やと思う。
そんなん誰でも怪しいって感づく失態に、リアリティの度量に疑問視したいトコロだが、御近所の中国じゃあ、事故った電車を国家主導で埋めてもうたんやから、あながちデタラメな隠蔽でも無いだろう。
タイムリーって怖いね。
こんなん批評ちゃうなとボヤキつつ、最後に短歌を一首
『過ちは 牙で潰せど 群れる渦 餌付いた欲に 染まる野良犬』
by全竜
這い上がれる、か
「クライング・フィスト」などの作品で知られるリュ・スンワン監督が、「ユア・マイ・サンシャイン」のファン・ジョンミンを主演に迎えて描く、犯罪ドラマ。
物語が始まる前から、勝負は決まっていたのかもしれない。出世を目の前でちらつかされ、手を出してしまった裏取引。その一つの過ちから、歯車が大きく、激しく狂っていく「低学歴」刑事の物語。観客は、一人の男がまがい物の権力を振りかざし、上り詰めようとする姿に興奮と、可能性を覚える。しかし、直に気付いてしまう。それは、はじめから在り得ないことだと。
警察、検察、闇組織の親玉。三つの権力がそれぞれの欲望、夢、金を求めて互いを脅し、傷つけあう空しさと、剥き出しの野性が本作のテーマとして用意されている。
嘘、見栄、怒号・・・ほぼ女性キャストを排した蒸し暑いほどに男臭い世界の中で、人間はどこまで野蛮に、汚く、生きるために必死になれるのかを韓国映画の真骨頂である暴力をたっぷりと織り込んで描き切る。
だが、その表向きのテーマをじっと、じいっと睨みつけてみると、巧妙に隠された物語の本軸が浮かび上がってくる。それは、何か。主人公である刑事チョルギに無くて、ライバルとなる検事にあるもの。
そう、「後ろ盾、ありますか?」ここに、尽きる。
人間、誰でも失敗をする。人に言えない後ろめたい隠し事が、一つや二つある。問題は、そのミスを巧妙にもみ消してくれる「後ろ盾」があるかだ。刑事には、それがなかった。一つのミスが、最期の結末へとノーブレーキで刑事を引っ張っていく。検事には、それがあった。だから、辛気臭い復活劇に向かって蜘蛛の糸が、降ろされたのだ。
犯罪ドラマとして観賞しても、二転三転するストーリーを的確に、時にユーモアを交えて作り上げる芸達者の俳優陣を揃えた良質の佳作として薦められる一品である。しかし、それ以上にこの作品は私達に、越えられない壁の存在を一人の男の転落を通して如実に突きつけてくる残酷性を抱えている点は、指摘しておかないといけないだろう。
どんなに頑張っても、どんなに優秀な仕事が出来ても、這い上がるための蜘蛛の糸がないなら・・・学歴、家柄、運。胸が痛む現実が、心に刺さる作品である。
前の人と同様に主人公に気持ちが乗っていきませんでした。ストーリーは、なかなか面白いのですけどね。
警察組織がメンツのために犯人をねつ造するという設定自体は、テレビドラマ『相棒』でしばし登場する設定。だが本作の主役の刑事は、その設定に立ち向かうどころか、自ら連続殺人事件の犯人をでっち上げる当事者になってしまうところが、刑事もののドラマでこれまでにないストーリーだと思います。
ヤクザを使ってニセの容疑者を仕立て、犯人逮捕に踏み切ったまではよかったものの、その不正に気がついた検事とヤクザとチョルギの三者の思惑と欲望が絡み合い、一筋ならでは行かないストーリーに引き込まれていきました。
北野武の『アウトレイジ』と同様に本作は、出てくるものがみんなワルなのです。そもそも主人公からして、犯人ねつ造の動機が、単なる出世欲でしかなく、おまけにねつ造を仕組む裏社会のやくざ者との関係がズブズブで、全く正義のかけらも感じさせない人物だったのです。
それを暴こうとする検事もまた、建築会社の会長との癒着を主人公の刑事に追及されて、自己保身のために、主人公の弱点を暴こうとしていただけなのでした。さらに後半の展開では、主人公の罪がバレそうになったとき、自分が信頼してきた部下ですら、犠牲にしてしまう悪辣さでした。
社会派クライム・サスペンスでは、どこかに正義が必要で、観客はそこに救いを求めようとします。けれども何処にも救いとなる正義がない本作は、誰にも感情移入できないフラストレーションが、溜まっていったのです。せめて『アウトレイジ』同様に、主人公よがもっとワルな存在に翻弄される哀愁を描いていたなら、同情の余地を感じていたかも知れません。しかし、主人公の情けない最後まで見せられて、最後の最後まで同情する気になれませんでした。そんな主人公の都合で振り回されてしまうヤクザのほうが、かえって可哀想に思えてしまうくらいです
対する検事のほうも、ざんざん嫌みな官僚らしさを発揮したあげく、最後はぬくぬくと自分の悪事を切り抜けてしまうのです。これじゃあ、見ている方はたまりません。何処にこの苛立ちをぶつければいいのか、後味の悪さばかりが残りました。
それでも、本作のオチは、全く予測不可能な真犯人のネタバレなんです。ええっ!驚かれること必至です。ほんのちょっと演出を変えれば、この結末がくぐっと感動的なものに変わったことでしょう。主人公が背負った理不尽な犯人ねつ造の空しさ。止むを得ず手を汚し、苦闘を強いられるその姿の切なさが染みいるように、感じ取れる終わり方になっていたはずで、とても残念に思えました。
その伏線として、でっち上げられた犯人が、真犯人として落とされていく過程は、なかなか説得力がありました。
ファン・ジョンミンは初めての汚れ役を熱演しているものの、イメージとしては、汚れ役よりもまっすぐ正義を貫く熱血刑事のほうが似合っていると思います。チョルギ役というのは、野心を感じさせる、一癖ありそうな俳優にやらせた方が、もっと本作のリアルティが出てきたのではないでしょうか。
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