月光ノ仮面のレビュー・感想・評価
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傑作だと言える
この映画は上映当時一度観ていて、好感が持てるといった程度の感想だったが、最近になって板尾監督第1作「脱獄王」を初めて観た事により、監督2作目となる本作は、一作目からの伸びしろを感じさせる完成度の高い作品であった事を再認識した。
高いレベルでうまくまとまっており、そもそもの古典落語から着想したというプロットも斬新で、珠宝の発想だと言える。前田吟、浅野忠信、石原さとみ、カラテカの宮部など、俳優の力を引き出していて監督としての力量も感じさせる。また主人公が無口なキャラの場合、作劇上登場人物とのやり取りに無理が生じがちなものだが、その点においては北野武よりも優れている。
松本人志は一作目が点、二作目で線、三作目で面となると言っていたが、自身は大した成果を出せなかった。しかし板尾創路の監督作品の場合、本二作目において、線としての立派な成果を出したと言える。その後の監督作は又吉原作の「火花」という企画モノであるため、本来的な意味での板尾監督3作目は現時点でまだ作られていない状態だと言え、よしもとが監督としての板尾に長らく投資をしておらず、映画をプロデュースする上での審美眼に欠けている事が残念だ。もっと映画監督板尾に投資すべき。
本作の時点において、板尾創路は映画作家としての自己を確立していると言える。「板尾の絵」といったようなオリジナリティは、現時点ではまだ明確になっていないと受け止められるが、次回作があるなら、それだけの品格を備えた次元の映画監督に成りおおせる期待が持てる。
★本作の残念だった点
【画質加工】
初見の時、作品の本質を見抜けずスルーしてしまったのは、画質の加工がキツすぎだからだと思う。擬似銀残しのようなセピア調の画質加工がされていて、あまりにパッケージングされたような印象が強まってしまい、作品の臨場感を削ぐ結果になっていたと思う。加工のコンセプトは恐らく満月の夜が続く町という異様さを醸すためだったのだろうと思うが、それは結果的に作品を埋没させる事に寄与してしまっている。前作「脱獄王」はまるでVTRのような稚拙な画質が特徴的だったが、それが板尾のナチュラルな結果論なら、無理な加工をするよりそのまま貫徹した方がいい。
【Dr.中松と遊女】
Dr.中松と遊女のシークエンスには結論も、本筋との関連性も明確に描写されていない。またこのような作劇はリンチ作品ほどの強いインパクトでもないため、作中の必然性に欠け、観ていて納得ができない。
解釈として、遊女は尋常ならざる、連夜満月が照らす町から、尋常なる世界への逃亡を図ろうとしていたと受け止められる。また板尾演じる男はその手助けをしていたと受け止められるので、満月をキーとした根拠付け、関連付けの作劇をして欲しかった。
【人力車を轢く男】
この登場人物にも何の説明もないが、異様さの点において、連夜満月が照らす町と何らかの連動性があったと思われる。遊女が満月を疑う存在なら、この男は満月の異様さを受容している存在だと受け止められる。そのような作劇の補完をして欲しかった。
【連夜満月が続く異様さ】
この異様さという要素が、作中では表現不足で、裏設定のようにされていたのが残念だった。
粗忽長屋を
ラストシーンまでは辛かったが、ラストシーンでやっと挽回した感じの作品。ラストシーンだけ見るとすごい。
これくらいの星はつけてもいい。
そこまでが辛いので二つ星を減らした。
板尾創路は好きだけど…
板尾創路は好きである。
バラエティ番組でのシュールな笑い、俳優や映画監督もするマルチな才能。
だけど、あまりにもシュール過ぎる監督作はいかがなものかと…。
顔に火傷を負った復員兵がいて、どうやら彼は戦前人気の噺家のようだけど記憶を失ってるようで、彼を知る者は再び招き入れて高座に上がらせるんだけど、人違いである事が分かって、本物が帰って来て、でも二人は戦友で、喉を負傷して話せなくなった本物の代わりに偽者がまた高座に上がる事になって…。
分かる人には分かるんだろうけど、この独特の板尾ワールドについて行けない…。
板尾のシュールさはバラエティで充分。
彼に火傷を負った偽者と本物の噺家が、「犬神家の一族」の佐清と静馬に思えた。
落語×映画のイリュージョンの融合=板尾ワールドの大乱射
終戦直後の混乱期に伝説の天才落語家が記憶を一切無くし、別人のように帰ってきた事で寄席連中が疑心暗鬼に陥るサスペンスタッチの物語。
メインテーマの噺である『粗忽長屋』は、行き倒れになった死体を俺だと名乗る人間が引き取りに来る奇妙奇天烈なストーリーで、戦争で生死をさまよった人間の狂気を巧みに照らし合わせ、不思議な見応えを産む。
板尾は落語家でありながら、台詞らしい台詞を一切言わないし、唐突にドクター中松が乱入するetc.設定を無視した世界観作りに違和感に戸惑う。
戸惑いに慣れた頃、衝撃のサゲに脳髄をぶち抜かれる。
散々引っ張っておいて卑怯やと怒りたい気持ちも威勢よくぶち抜かれ、まあイイやと笑ってしまう。
故・立川談志師匠は粗忽長屋を「落語というイリュージョンの極地の一つ」と評し、愛していた。
オチはあるけど、答えはない。
今作の狐に摘まれたような唯一無二の後味に、板尾ワールドが落語のイリュージョンを見事に継承しているような気がした。
では、最後に短歌を一首
『帯なぞり 指と唇 解くうさぎ マクラすり替え もぐらの飛沫』
by全竜
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