「バイオレンス作品なのに、ラストシーンは感動的。思わず泣かされてしまいました。」アジョシ 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
バイオレンス作品なのに、ラストシーンは感動的。思わず泣かされてしまいました。
凄惨なアクションシーンが伴うダーク基調のバイオレンス作品なのに、ラストシーンは感動的。思わず泣かされてしまいました。韓国で2010年の年間No.1ヒットを記録したというのも納得です。
元々本作は、「アジョシ」のイ監督が、 阪本監督の「闇の子供たち」をリスペクトして作られた作品です。詳しくは9月15日(木)毎日新聞に対談記事が掲載されています。
双方の作品に共通しているテーマは、少年少女を誘拐して人身売買したり、さらには臓器売買にまで及ぶこと。「闇の子供たち」ほど、突っ込んではいないものの、本作でも衝撃的な展開が用意されていました。日本人をはじめ数多くの欧米人がアジア諸国で児童を買いあさっているのは周知の事実です。善意の臓器移植カンパも臓器の入手元として、作品のような非人道的な方法で得た臓器が使われる恐れも充分にあります。
作品を紹介するのに先立ち、臓器移植の解禁が、二つの作品で描かれるアンダービジネスに繋がっていることを警告したいと思います。
生きたまま眼球や臓器をえぐる行為は、劇中のシーンとしても正視に耐えません。(そのものズバリはカットされていましたが)けれども、脳死状態でも人は死んでおらず、麻酔もかけずに肉体を切り刻む行為が、医療機関で白昼堂々と行われるのは、余りに人のいのちの問題に医学者が無知であると一喝したいです。
このようなアンダービジネスに繋がる臓器移植は、一刻も早く禁止して、代替臓器の開発や臓器再生技術の確立を優先させて欲しいと宗教の立場から願うばかりです。
ウォンビンが演じる主人公テシクは、元情報特殊部隊要員。かつて何者かの襲撃に遭い、妻が殺され、自身も深手を負いリタイヤ。妊っていた妻を失った悲しみは深く、以来ずっと心を閉ざして世捨て人のように生きていたのでした。
そんな彼のかたくなな心をほぐすのが、場末のアパートの隣室に住む孤独な少女ソミ。ソミはテシクを「アジョシ(おじさん)」と呼び、慕っていたのです。
端正な容貌で実年齢の33歳よりもずっと若く見えるウォンビンには似つかわしくない呼び名かもしれません。けれどもそのギャップは、ソミとテシクの関係が変化していくなかで、自然に受け止められるようになりました。家族でもない、恋心の対象でもない、ただ親しみをもって頼り頼られる間柄。そんな微妙な距離が、ラストまで利いてくるのです。
人と関わりを避けていたテシクは、馴れ馴れしいソミをうっとうしそうにあしらいます。外でソミがトラブルにあった時、通りかがったテシクに助けを求めて、居合わせた警官にあの人がパパと指さすものの、テシクはアカの他人と無視するのでした。
父親のいないソミにはそのひと言がショック。けれども言い放ったテシクにも、心の奥で、後悔の念を抱いていたようです。その思いが、その後のテシクを2度と愛する者を失いたくないと走らせます。本作は、他人の娘だと思っていたソミが、他人と思えなくなっていく、愛の物語だったのです。
ソミの母親は麻薬中毒にかかった、ダメ親。よせばいいのに麻薬売人から麻薬をくすねて、麻薬を隠したカバンをテシクの店に質に入れしてしまいます。
当然麻薬組織は、麻薬を奪い返すため、店に来て、同時にソミと母親を誘拐してしまうのです。それを知ったテシクは、ソミを救出するため命をかけて戦い始めます。
本作の魅力の一つは、セリフよりも雄弁なアクション。孤独な男の心情を身体で語るウォンビンに目がくぎ付けになるでしょう。肉体美にも惚れ惚れします。とにかくアクションのテンポの速さときたら圧巻です。動きも激しい。例えばソミの行方を追うテシクが警官に囲まれて、2階の窓を突き破り、道路に跳躍するなんてシーンも。。接地してすぐ、テシクの正面に回り込む機敏さに驚かされます。もちろんノースタント。
撮影も必死に追いついていっています。本作でデビューした新米撮影監督イ・テユンは、飛び、立ち上がり走るテシクに合わせて、カメラを手持ち撮影に変えて同時に飛んだとか。そんな躍動するカメラワークが、大韓民国映画大賞・撮影賞受賞に結びついたようです。
もう一つの本作の魅力は、韓国映画らしい容赦なき過剰な演出です。
凄惨を極めるアクションシーンに加えて、ヒーローはあくまでも強く、犯罪者は限りなく悪く、小さなヒロインはどこまでもいたいけ。それでも陳腐に映らないのは、喜怒哀楽を強烈に放つウォンビンのエモーショナルな演技が秀逸だからです。泣かせどころの哀愁に満ちた表情もいい!決めぜりふもたっぷり。戦いを決意して髪を切る場面、そして、敵地に乗り込んで「お前は何者だ」と問われた時の一言に痺れました。
それに、少女役にキム・セロンを使うなんて反則技だぁ!彼女が登場するだけで、余りの純情さ、可憐さに泣けてくるではありませんか。
悪役どもも、キャラが立ってて、一癖ある奴らばかり。最後にちょっと良心を見せるところも憎いです。
重い話ではありましたが、周囲が暗ければ暗いほど、互いの中に希望の光を見出した主人公と少女の物語が輝く仕掛けとして、感動のラストが泣けてくるようになっている訳なんですね。だから少々ラストがご都合主義で終わっても、充分許せる範囲でした。