「探偵モノの鉄則である“痛快と哀愁の共存”を小気味よく踏襲し、小気味よく裏切った快作」探偵はBARにいる 全竜さんの映画レビュー(感想・評価)
探偵モノの鉄則である“痛快と哀愁の共存”を小気味よく踏襲し、小気味よく裏切った快作
カクテルの匂いより血生臭さが鼻をくすぐるハードボイルドタッチな世界観を地元・北海道が産んだ巨星・大泉洋が、得意のコミカルな愛嬌と巧みなる演技力で探偵を活き活きと力演しており、『水曜どうでしょ〜』以来続く、《北海道に大泉あり!!》を改めて叫んでいる。
危険な目に遭い、追い込まれる程、リアクション芸が冴え渡る爆発力が健在なのも大泉ファンには嬉しい限りだ。
身体を張った探偵モノってぇっと、『傷だらけの天使』や『探偵濱マイク』『チャイナタウン』etc.が頭に浮かぶけど、やっぱり我々の世代にゃ〜『探偵物語』が、てっぺんでして。
先代・松田優作が確立したダンディ&哀愁&野性味&だらしなさで哀愁たっぷりに奔走する探偵像を、松田一門の筆頭・龍平が独自の解釈で継承していたのは、今作において最も感慨深い要素だったと云えよう。
コンビモノの鉄則である薄情者と義理堅い野郎の凸凹加減が、
探偵モノの鉄則である“痛快と哀愁”の共存が、スクリーンで踏襲されつつ、事件そのものの予測は小気味よくハズす。
背景の悲喜交々が、飄々と時に深くブレンドされ、良い案配の波を形成していくから、重い内容なのに、観終わった後、あまり疲れない。
そして、形振り構わず権力と財力に近寄る未亡人の小雪や、『ノーカントリー』のハビエル・バルデムを彷彿とさせるイッテる殺し屋の高嶋政伸etc.ヒール陣の充実も今作の欠かせない魅力の一つと化している。
敵が憎々しいからこそ、滑稽な追っ手が悪戦苦闘の末、徐々にヤマの主導権を握り締めていく時に湧く主人公の快感が客の胸にも瞬く。
めったにシリーズ化は望まない私だが、大泉&龍平のコンビの今後が早くも気になって仕方がない。
そんな期待を込め、最後に短歌を一首
『脚長く 雪ヤマ転ぶ 白と黒 火花(華)刻みし 灰の封切り』
by全竜