「しがらみだらけの、サスペンス」神々と男たち ダックス奮闘{ふんとう}さんの映画レビュー(感想・評価)
しがらみだらけの、サスペンス
グザビエ・ボーボワ監督が、ランベール・ウィルソンを主演に迎えて描く人間ドラマ。
鼓動が、疾走を始めるのを確かに感じるのである。フランス人宣教師の信仰を描く作品と聞いていたので、じわじわと人間の温かさと情熱を描く世界かと予測していたのに。観賞前に私を支配していた空腹感と眠気はものの見事に吹き飛び、思わず身を乗り出して物語に入り込んでいた。これは、ちょっと、凄い映画かもしれない。
1996年、アルジェリアで実際に起こったフランス人宣教師の誘拐殺害事件を題にとった本作。既に亡くなっている宣教師の皆様に事実を聞くことも出来ないので、ある程度作り手の想像、創作が紛れ込む。その創作部分こそが、じわじわと心と身体が追い詰められていく人間の葛藤、決意、覚悟の沸騰する第一級のストーリーを奏で、観客を問答無用に物語へと引きずりこむ。
本作の軸となるフランス人宣教師の方々に与えられた人間臭さも、この作品の魅力を生み出す必須の要素だろう。厳格に、自らの信仰を疑う事無く殉教を受け入れる堅物人間ばかりかと思えば、「わしは・・・何で死ぬんじゃろうね?」と、茶目っ気溢れる大きな瞳で信仰を疑う、人間味と親近感溢れる人間として描かれている。
だからこそ、「じいちゃん・・・頑張りなさいよ!」などと思わず近所のお爺様に対するような熱い声援。最期のその瞬間まで主人公に併走し、重厚な実話空間を隅から隅まで楽しめる。
外国人としての偏見、殉教に突き進むことへの葛藤、そしてキリストへの愛の確認。宣教師に降りかかる様々なしがらみを飲み干し、かわし、年を重ねた宣教師たちが何を求めたのか、最期に見たものは。
信仰を軸にみると、少々とっつきずらい語り口に心身疲労だが、サスペンス作品として考えればボリュームたっぷりの味わいを満喫。食わず嫌いをせず、思わず目を見張る極太ドラマを心ゆくまで楽しんでいただきたい。