「変わり続ける、勇気」名探偵コナン 沈黙の15分(クォーター) ダックス奮闘{ふんとう}さんの映画レビュー(感想・評価)
変わり続ける、勇気
静野孔文監督が挑む、青山剛昌原作のアニメーション映画待望の第15弾作品。
ある著名な日本画家は、作品を重ねる毎に題材を変え、作風を変えてファンを喜ばせていた。だが、ある時に人生のライフワークとなる題材を見つけ、それにのめり込んだ。その結果大作家にはなったが、つまらない画家となった・・。「変わり続けるから、皆追いかけてくれるんだ」ある男は言った。それは、画家に限らず、どんな芸術にも言えることなんだと。
劇場版「名探偵コナン」シリーズはその点において、「変わり続ける」芸術を追求した作品群である。推理劇に重点を置いたサスペンスを作ったかと思えば、推理はそこそこにスクリーンを意識した大スペクタクルを重視した作品もある。では、本作はどうかといえば、十中八九、後者に属しているだろう。
今作で発生する殺人事件に対して真相を明らかにする展開が、まさかの推測で語られている事からみても、それは歴然だ。「これは、あくまでも推理でしかないんだが・・・証拠もないし」で、地味にほの暗いトンネルの中で語られる事件の顛末。一気にそれまでの謎を潰していく急ぎ足の解明シーン。掘り下げればもっと広がりを見せられたはずの記憶喪失に、密かな想い。細かい謎を美味しく料理していく余裕が感じられないのが非常に残念である。
何はともあれ、消化し尽くした一連の事件解決のくだりを終えれば、後は本作の真のクライマックス、ダム決壊に、雪崩。軽快に格好良い壮大なアクションに涙と、立て続けに叩き込み、観客を物語に釘付けにする。これまで以上にスクリーンの大きな空間利用を意識した展開を無駄なく、効果的に配置し、高い満足度に繋げている。
人間の葛藤、復讐、悲哀のドラマに、若干の違和感や無理が発生しているのは否めないが、静と動、どちらも高いレベルを求めるのは酷というもの。素直に雪山での活劇に目を移して楽しむのが正解となる作品だ。
常に振れ幅大きく、変化し続けることを恐れない「コナン」シリーズ。既に決定している次回作は事件重視か、それとも活劇に力を込めるのか。「追いかけられる」事を選んだ一人の名探偵の物語は、観客の予想を裏切り続けることを楽しむ難しさに挑み続ける。