劇場公開日 2011年2月19日

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「監督は少し力みすぎか?兄弟の葛藤につながるシーンが飛びすぎてて、筋に付いていけませんでした。」男たちの挽歌 A BETTER TOMORROW 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5監督は少し力みすぎか?兄弟の葛藤につながるシーンが飛びすぎてて、筋に付いていけませんでした。

2011年2月23日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 確かにラストの展開は、痺れるくらいの男泣きする作品でありました。香港ノワールの傑作のオリジナル「男たちの挽歌」を監督のジョン・ウーが製作総指揮を執っているだけに、全編に渡って夜の暗闇に蠢く、男たちの命を削る戦いが描かれていたのです。特にガンアクションは激しく、スローモーションを多用した銃撃戦の表現は、オリジナルの遺伝子を正当に受け継ぐものでした。たったひとりの男がバッタバッタと敵をなぎ倒していくのは痛快です。
 けれども小地蔵が期待したのは、既に完成されていたノワール作品として渋さや、激しいガンアクションではなかったのです。やはり韓国映画としてリメークされるのなら、脱北した兄弟の絆の深さを感じさせる『クロッシング』のようなヒューマンドラマの部分でした。

 けれども、本作はシーンが飛びすぎていて、兄のヒョクに対して弟のチョルがどうして北に取り残されたこと恨みに思っているのか、分かりづらいのです。兄弟の間の葛藤が、宙に浮いたままストーリーが展開するので、チョルが脱北して兄のそばに住み始めたとき、ずっとヒョクは、弟の姿を遠目に眺めるだけで、会おうとしないのが理解できませんでした。
 またチョルが刑務所にいたのに、いきなり刑事になるのも疑問ですが、その動機が兄の逮捕するためという心境も、イマイチ理解できませんでした。

 但し察するに、ヒョクの脱北のせいで、母が収容所送りになり死んでしまったこと、
チョルらは許せなかったのでしょう。でも自分も一緒に逃げていたので、同罪だとは思うのですが。
 またヒョクがなぜ弟に会おうとしなかったかといえば、やはり拳銃密輸組織の幹部に成り下がっていて、何の面下げて顔を合わすのか、心苦しかったのだとは窺えます。
 だから一度捕まって出所したとき、弟に会いたいという一念で、組織から足抜けして、堅気で頑張ろうという流れは、充分に理解できました。
 ただもう一つ疑問に思えることは、そんな犯罪者のヒョクを、父親のようにヒョクの世話をしているパク警部の気持ちが分かりません。序盤は犯罪に関わっていたのですから、身の上の世話を焼く前に、刑事として何故逮捕しないのでしょうかね?

 足抜けしても、密輸組織としては手際の優秀なヒョクを諦めて訳ではありません。仕事を断ったヒョクを強引に引き込むため、弟分のヨンチュンを血祭りにして、さらにその黒い手は、チョルにも及びます。
 密輸組織を仕切るテミンは、しつこく自分を監視するチョルが邪魔でした。そこで交通事故に見せかけて、チョルの乗車した車目がけて大型ダンプに突進させます。自らも重傷を負い、同僚を死なせてしまったチョルは、テミンへの憎悪と激しい自己嫌悪に囚われます。

 いくら弟との再会のために堅気なろうと固く決心していたヒョクでも義兄弟と実の弟の両方に深手を負わされては、その怒りが頂点に達します。但しもう少し、『その男、副署長』の決めぜりふ「おれの我慢もここまでだ!」というような象徴的なシーンがあっても良かったのではないかと思います。

 ヨンチュンがテミンのアジトに殴り込みをかけて、銃の密輸の証拠となる帳簿を強奪したとき、ヒョクは意を決して、ヨンチュンの救出に向かいます。ここからヒョクたちとテミンの全面対決となり、ラストに向けて激しいドンパチシーンが続き、目が離せなくなります。ここでやっとテミンに対する復讐で、ヒョクとチョルが繋がります。
 帳簿をエサに、テミン一味を誘き寄せて、単身壊滅を図ろうとするヒョク。それは、かつて脱北しようとしたとき、弟を置き去りにしてしまった負い目の精算でもありました。もう二度と逃げまい、そして弟の身の危険を守るのだというヒョクの侠気に泣かされます。自分についてきたヨンチュンにも、すぐバレる嘘をついて逃がそうとするところが、カッコイイですね。

 ラストがキチンと兄弟への挽歌になっている分、もっとここまで来るなかにあった、兄弟の葛藤に至る経緯を丁寧に描いて貰えれば、グッとくるのに惜しいと思いました。
 大御所が製作指揮に廻り、監督は少し力み過ぎたのではないでしょうか。スタイリッシュに決めようとして、ちょっと重要シーンをはしょりすぎたきらいを感じました。

流山の小地蔵